友達登録上限:20の人でなし

ちびまるフォイ

     ┌(┌^o^)┐

・人間が友情を与えられる人数には限りがある

・友情には濃度があり20人以降はつながっているだけの他人

・異性の友人は同性の友人10人の価値がある


ネット文化の普及で大量に友達が量産されたことで、

もっと人間関係を大事にしなさいよと、友達登録制度が実施された。


「20人しか友達登録できないのか。意外と少ないなぁ」


本当に親密な人だけで登録すれば20人は多い。

でも、軽く話すだけの人も登録すると20人は少ない。


友達登録は自分の個人情報として公開されるから、

20人の枠が埋まってないと免許書見せたときとかに

「こいつ友達3枠しかいねーのなwwww」などと笑われそうだ。


まずは20人の枠を埋めようと、友達濃度はともかく20枠を獲得した。


「よし! これで少なくとも孤独な奴だとは思われないぞ!」


安心して就活の面接に望んだ。

履歴書を見た面接官はぷっと吹き出した。


「……あの、なにかおかしかったですか?

 友達登録リストは20枠埋まってますよね」


「ええ、ええ。そうですね、ただ……」


「ただ?」


「実はさっきもあなたのように見るからに暗い人が

 あなたの友達登録リストとほぼ同じ内容だったんですよ。

 いやはや、類は友をよぶというか。

 友達少ない人は、同類で身を寄せ合うしかないんですね」


どっと笑いが起きた。

腹が立つよりも恥ずかしさが上回った。


その面接後、すぐさま友達のひとりを呼びつけた。


「久しぶりじゃないか。どうしたんだよ」


「実は、友達登録を解除したい」

「えっ。何言って……」


「お前とは中学の頃遊んだけど、高校からは別々で……。

 なんていうか、もう別に友達じゃないから」


「待てよ、でも、ほら……たまに遊びたくなるときも……」


一度、友達登録を解除した人間を再度友達登録することはできない。

それを知っているだけに友達も枠が1つ空くのを避けたがっていた。


「俺決めたんだ。友達は自分を高めてくれる存在なんだって。

 お前は価値観が近いかもしれないけど、俺にプラスにはならない。

 友達として価値が低いんだ。だから友達辞める」


「そうか、わかったよ……」


友達登録を1枠解除し、新しい友達を登録した。

今度は自分とは遠いタイプの明るくアクティブな人だった。

週末に意味なくパーティとかやってそうな。


「ウェーーイ! 飲んでるぅ~~♪」

「うぇ、うぇーーい……」


「ノリ悪いじゃんよぉーー。アゲてこうぜぇ~~!!」


明らかに波長は合わないが、自分にはプラスになった。

交友関係が広いので友達登録したことでフタが取れたように人脈が広がった。


「僕は学生ですが会社を起業しようと思っています。

 高い志と実行力を身につけるのに年齢は関係ないですから」


「い、意識高い……! これはプラスになるぞ!」


ハイスペックな人を紹介されて友達になった。

枠を空けるために、友達を1人契約解除した。


「いやぁ、家が貧しかったけど、ギャンブルでドン勝ちして

 それを元手に投資したらこれがうまくいっちゃってさぁ」


「俺にない経験持ちすぎだ! これは友達になるしかない!」


凄まじい経験を持ち人とも出会えたのですぐに友達になった。

枠を空けるためにまた1人旧友を解除した。


そして、ある日誘われたクラブのパーティに参加したとき。


「君、こういう場所、ニガテ?」


「えっ?」


一人クラブのすみでちびちびお冷を飲んでいると、

美人の女の子が声をかけてきた。

ハニートラップを警戒したのは挙動で気取られてしまったらしい。


「あはは。もしかして、なにか疑ってる?」

「この後、怖いお兄さんが来て法外な金取られないかと……」


「そんなことしないよ。ただ、私もこの空気ちょっと馴染めなくて。

 で、隅っこにいる君と軽く話したいなと思って声かけたの」


「そ、そうなんだ」


「ねぇ、私と友達にならない?」


あなたとだったら魔法少女にでも友達にでもなりますよ。

などとオタク臭い答えをしたくなるほど魅力的な提案だった。


「あれ? でも、君の友達枠いっぱいだね」


「うそ!? ちゃんと1枠空いているのに!」


「異性だと10枠必要なんだよ」

「なんですと!?」


彼女からは連絡先だけを受け取りその日は事なきを得た。

その日を境に俺は友達リストラの鬼となった。


「削除」

「削除」

「削除」

「削除ォォォ!!!」


友達解除には両者の同意が必要。

一方的に切ることはできないので、毎回契約解除を伝える必要がある。


その度に「なんで」「どうして」「友達だろ」とかグズられるので、

10枠確保のために解約代行人を雇うことにした。


「はじめまして。私は友達契約解除代行人。略して友人」


「最初と最後しか合ってねぇ……」


「私が来たからにはもう安心。サクッと要件を伝えて

 ズバッと友達解約にこぎつけることをお約束しますよ」


「ひとつだけいいですか。この1人だけは、俺の口から伝えたいんです」


「それは構いませんが……大切なご友人なんですか?」

「幼稚園からの幼馴染なんです」


解約代行人の手腕は相当なもので、

泥沼化しそうと心配していた解約作業もスムーズに進んだ。


平行して俺は最後の親友を呼び出した。


「実は、友達を解除したいと思ってる」


「お前……マジか? だって、ずっと友達だっただろ!

 それにこないだだって一緒に遊んだじゃないか!」


「10件の空き枠が必要なんだよ! そのためには切るしか無い!」


「だから、どうしてオレなんだよ! オレ達親友だろ!?

 ずっと一緒に遊んできたじゃないか!」


幼稚園の頃からずっと一緒だった。

何をするにも一緒なのでよく「腐女子が喜ぶ関係」などとネタにされた。

それでも――。


「友達は自分を高めてくれる関係であるべきなんだ。

 ただの遊び相手なら、それは良い関係じゃない。だから切るんだ」


「そんな……! それでいいのかよ!

 そんな理由でこれまでの友達だった過去を切れるのかよ!」


「環境が変わったら友達も変わるんだ! いつまでも同じ関係じゃない!

 俺には今、自分を高めてくれる人間こそが友達なんだよ!!」


「……わかった、お前が変わったってことはよくわかったよ」


10人目の友達解除にこぎつけ、晴れて異性の友達を手に入れた。


異性の友達が10人分の価値があるのかと半信半疑だったが、

変に意識するようになり身だしなみも気にするようになった。

男友達に囲まれているだけでは得られない刺激があった。


「やっぱり10人切ったかいがあったなぁ」


しだいに友達から恋人へと意識がお互いに変わっていくようになり

3度目のデートにていい雰囲気になった。


「ねぇ、ちょっと目をつむって」

「え? なんで?」

「いいから」


これは完全にキスフラグだと確信し、目をつむって口を突き出す。



しばらく間があった。

彼女も緊張しているのかもしれない。


沈黙が流れる。



あれ?と思った矢先、頬をひっぱたかれた衝撃で目が開いた。


「痛ったぁ!? なになに!?」


「サイテー! そんな人だと思わなかった!」


「どうしたんだよ突然!?」


「自分の頭を見てみればわかるでしょ!」

「頭?」


スマホを取り出し、黒い画面を鏡代わりにして確かめる。

頭の上にはこれまで自分が切った友達の数が表示されていた。


「な、なんだこれ!? どうしてこんなっ……急に!?」


「こんなに友達を解除してきたの!?

 どうせ私とも都合が悪くなったら解除するんでしょ!」


「違うって! これは君との関係を手に入れるために

 断腸の思いで解除したから数が多くなったんだよ!

 もともとが20人で、それで解除していったから数が多くなって……」


「言い訳しないで!!」


もう一度ビンタされて眼の前に星が散った。

その後すぐに解約代行人が俺のもとにやってきた。


「お気の毒ですが、あなたとの友達解約をしにまいりました」


「……でしょうね」


逆らったところで関係が修復されるわけもない。

儚い恋だったと静かに友達を解除した。


「はぁ……もう最悪だ……」


人生のどん底の気持ちを誰かに話したいと思い、

自分の友達登録リストの名前を見た。


そこには意識高い人や、経験豊富な人、人脈に長けた人。

あらゆる長所を持つ人がリストされていたが。


「だ、誰にも相談できるわけない……」


下手に相談すれば「めんどくさいことを言ってくる奴」として、

負の要素を与えてくる友達だと思われて解除されるかもしれない。

相手にとってもプラスな存在でなければ、この関係は維持できない。


「俺の友達っていったい……どれだ……」


川沿いの土手でわかりやすく落ち込んでいると、

ぽんと背中を叩かれた。叩き方で誰かわかった。


「お前……どうして……。友達は解除したはずだろう」

「そうだったな」


やってきたのは幼稚園からの親友だった。


「……何しに来たんだよ。1度友達解除した人とは

 再度友達登録できないことくらい知ってるだろ」


「ああ」


「もう友達じゃないんだ」


「そうだな。なんでさっきから友達って形式にこだわるんだよ」


「……え?」


「単に、同じ幼稚園で、価値観が近くて、話が合う。

 そんな奴に絡みたがる他人でいいじゃないか。

 別に友達として認められることになんの意味があるんだ?」


「お前……」


親友はいつもの小馬鹿にしたような顔で笑っていた。

なんだか昔に戻ったような気がした。


「また腐女子が喜びそうな展開だな」


それだけ言って親友を小突いた。

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