3-2
会議室のテーブルを囲む最後のピース、椎名秀生徒会長がうーい、と気だるげにようやく現れると開口一番こう言った。
「教頭の孫が学校に遊びに来ているらしい」
何かを察して、へぇ、と会計の女子が冷たい視線を飛ばすが、椎名は御構いなしで続ける。
「というわけで、会議は延期だ」
「支離滅裂です!」
「待て、続きがある。その孫の好きなものが、夜景と街らしいんだ」
変わらずしらけた瞳の女子生徒にも椎名はまるで動じない。椎名は瞳をうるわせ、
「夜がはやく来るお祈りを捧げてあげようと思うんだ」
会計の女子は立ちあがり、真面目にやりましょう、私たち最後の大仕事ですよ体育祭は、まーた面白いことが思いつかないからって先延ばしにする、そろそろまずいんですってば、明々後日から体育祭の練習始まるんだから! 散弾のように言葉を浴びせるが、椎名は「今日、眠いし」でこれを一蹴。「まだ二日も余裕がある」
呆れた女子生徒がため息を吐いて、じゃあ明後日よ絶対だから、というまでがテンプレートだというのはその場の全員が把握していた。
天道の阿呆とゲーセン行くかな! と意気揚々と退出寸前の鍵丸副会長を呼び止めた椎名は「せっかくならボードゲームやらない?」
類は友を、阿呆は阿呆を、鍵丸は二つ返事でこれを承諾。ボードゲームをやる時間でアイデア出せよとつっこむ気力もなく、はははと棒読みで笑うしかない会計さん。来年の会長もやばいな、これは。と思いながらも椎名たちのことをリスペクトしているから、会議は延長を許可したし、なんだかんだで椎名が持ってくるアイデアを楽しみにしているんだろう、と書記の岸蔦照人は思った。生徒会で一番、否、唯一真面目でまともな会計さんが認める椎名の凄さは本物だ。去年の元素祭での圧巻の統率力、企画力はこの学校を大きく変えたと言っても過言ではない。会計さん、最早椎名の行動力に恋しているまであるな。
実際、恋愛感情はなかったが。
「岸蔦もやろう」と椎名が声をかける。待ってましたと言わんばかりのおう、やろやろ、の即答で、3人は会議室を後に、残されたもう一人の書記と会計の女子生徒は生徒会男群の阿呆っぷりに肩をすくめることしかできなかった。
なにが眠いだ、なにが。
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