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窓の向こうに目をやると、葉桜がいた。強い春風に吹かれても、めげずにそびえ立っている。この1年間は彼を眺めながら物思いにふけることになりそうだ。

一香は常々考える。青野翔の瞳について。

こっこと教室でお弁当を食べていた去年、たまたま目が合ってたじろいだ。大きな黒目、それを蓋するように長い睫毛。さしずめ黒い真珠といったところか、瞳はチカチカ眩しく輝いている。

彼に抱いた最初の気持ちは違和感、というのが相応しい。違和感の正体を知りたくて、親友と話しては視野見を繰り返した。視界の端に彼がいると、まばたきを意識するから辛いことに気づいた。彼がいると、鼓動を意識することに気づいた。恋をしていることに気づいた。

笑うと姿を見せるえくぼがお気に入りで、誰かどうか彼を笑わせますように、と願った。彼がえくぼを作れば私の口角も連動するように上がってしまうのが恥ずかしいけど。いつしか気持ちを親友に打ち明けた時、イッチーらしくない、自ら行動しないとか、って言われて私も驚いた。

たまたま掃除区域が近かった時の、ほうきを持つ彼の腕をよく覚えている。私もほうきを持って、ぼーと夢の中にいたら、先生に怒鳴られた。怒鳴られても上の空を泳いだまま、優しく抱きしめられたいなぁ、あの腕に。なんて思っていた。浮き出た筋肉とは裏腹に優しくほうきを掃く彼が、とても官能的にうつった。

そして今もぼーと夢の中にいたら、先生に怒鳴られた。

「小野!! 聞いとるんか! ここ読め!」


そんなこんなで4限は最速終了時間に2分遅れで号令がかかり、購買を訪れた頃には「今日のプレミアムソース焼きそば」は完売です、の文字が。仕方ないから普通の焼きそばを250円で買った。プレミアムも同じ値段なのが悔しい。

四月も後半にさしかかっているが、春のにおい、春の高揚感は一香の胸から消えない。胸には恋も住みついているんだから、そろそろ出てけ。と胸を払った。こっこたんのところ行こー、と早歩きを開始したら、彼女は目の前に現れた。

「あれ? こっこたん、どこ行ってたん?」

視線を二、三度斜め上に泳がせたので視線を追っていたら、「今日は違うところで食べない?」

両手を背中にやって前傾姿勢の上目遣いのこっこたん、ずるいなーと一香は思った。そりゃあ彼氏さんも落ちるわけだ。

たまには息苦しくない昼食もいいかな、と一香は思って、二つ返事で了承した。

「じゃ、場所決めたらあとでRINEで連絡するね。イッチーは自分の教室で待ってて」

「え、なんで? 一緒に探せばいいんじゃ」

「ちょっとこれから寄るところあって! じゃあまた後でね」

なんだか焦っているようなので、一香は大人しくその場を去っておいた。背中の方でタタタタと走るこっこの足音を聞いていた。彼氏さんかなー。一つまみくらいの羨ましい気持ちが感情に落ちたけれど、一香は自覚することもなく、また青野の瞳を考えていた。病的なくらいに春風を胸に吹かしている。青春が芽を出して、水と太陽をただ待っている。彼の声と彼の瞳をただ待っている。

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