第26話
元からそういう顔なのか。それとも単にただ楽しんでいるだけなのだろうか。神埼先生は志帆先生の方をチラリと見てから、満面の笑みで説明を続けた。
「まぁ題聞いただけじゃ、わからないよな。…安心してくれ。俺と志帆で手本を見せるからな。」
志帆先生は名前呼びに訂正を加えようとしてか、少し顔を上げて見せたがすぐに俯き溜め息をついた。明らかに乗り気では無いことがうかがえる。
「よし、じゃあ。…もう開けてるやつもいるようだが。それ、開けてもいいぞ!」
神埼先生は手元に余っていた箱をカラカラと回して見せた。どうやら初日から欠席者がいるようだ。しかし、箱に書かれた名前までは見えなかった。
もう既に開けてしまっていたこころさんの手には焦げ茶色の眼鏡が入っていたようだ。…驚愕した顔でこころさんはそれを見つめていた。体もピクリとも動かない。
「どうしたの?こころさん??」
僕の問いかけに数秒遅れてこころさんは言った。
「こ、これ…。私がお家でかけてる眼鏡……。」
続けてエミィが言う。どうやら彼女も既に箱は開けていたらしい。
「へぇ、粋な事するわね。…随分お金がかかってそうだけれど。」
彼女の手には指輪が握られていた。小さな宝石が一つ象られたシルバーの指輪だ。彼女も同様に少し驚いたような顔をしてそれを眺めている。
もしかしてと思い、僕も急いで名前の書かれた自分の箱を開けた。
僕の想像通り、中に入っていたのは小さい頃母から貰った、腕時計だった。
しかし、これは偽物である。
姿形は全く同じだ。だが、動かない証拠が一つある。
今、僕はそれと全く同じものを腕につけているのだ。傷の位置、掠れた盤が全く同じものを。
クラスの大半がそのことに気がついたらしい。ざわざわと次第に騒がしくなっている。
「いい反応だな!見違えただろう?それが新しいCiIだ!各々の思い出の物をモチーフに作ったぞ!!」
神埼先生の声にクラスのざわつきは収まった。合点がいく。なるほど随分粋な事をしている。
「じゃあ早速それ着けてくれ!」
神埼先生の促しに各々、配られた装飾品を体に着け始めた。こころさんは眼鏡をかけて、エミィは右手の小指に指輪をはめた。
僕も右手に腕時計を回す。
全員がつけ終えたのを確認して、神埼先生は続ける。
「…よし、じゃあ目を瞑って、自分のCiIに触れてみてくれ!そしたらだな…」
僕は神埼先生の言う通り、目を瞑り、右手に着けた腕時計に手を触れ……
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