第24話


席について担当の先生を待っている時、僕は自分の失態に気がついた。


…路美さんとコンタクトを取っていないではないか。

そっと路美さんの方を盗み見る、何か本を読んでいるようだ。でもどうして演劇科に来たのだろうか。はっきり言って特徴が無さすぎる。


そんな失礼な事を考えていると、見覚えのある先生が戸を開け入ってきた。


「はいおはよう!!皆合格おめでとう!!!」


神埼先生だ。両手にはまた見覚えのある機械を抱えている。


「どうした、そんな固くならなくていいぞぉ!」


と言ってがははと笑って見せるが、教室の雰囲気は静まり返っている。なんだかんだで自己紹介に体力、精神力を使ったためなのか、はたまたただ冷めきっているだけなのか。


「え…っと。はは。あー…俺は神埼!もう知ってるな。…自己紹介とかはもう済ましたのかー?」


苦笑い混じりに神埼先生は教室を見渡すが、その問いかけに応じる生徒は誰一人として居なかった。あの赤壁兄弟でさえも俯いている。…いや、兄弟はそう見せかけてにやにやと笑っていた。


さすがにいたたまれなった僕の口は思わず開いていた。


「はい!ついさっきの時間に!」


やっと生徒からのまともな反応が返ってきたからだろう、神埼先生の顔がパッと輝いた。


「おぉそうかそうか!どうだ馴染めそうか新しいクラスは!!」


声が嬉々として跳ねる神埼先生を見て、僕は直感する。


地雷を踏んでしまった。そう、今度の問いかけはクラスにでは無く、あきらかに僕に向けられて発言されている。


どうだって言われてもなぁ…。まず始まってまもないしなぁ…。


言い淀み、曖昧に笑みを溢していた僕を見て神埼先生はニコリと笑う。


「まぁ、まだわかんないよな!!」


「それでだ!このまだ始まったばかりのクラスをまとめるクラス代表を!」


神埼先生は一段と声を張った。


「これを使って決めてもらう!!」


ばん!とあの日みたものと全く同じ籠を教卓に叩きつける。


CiIを使って…?


「じゃあ説明するぞー!まずはだなグループ別に別れて、各々課題に取り組んでもらう!それで一番できのよかったやつがグループ内で一人グループ代表を決めてくれ!」


ほう、一番うまくできた人が代表をするんじゃなくて、指名権を握られるのか。


「それで最後にグループ代表の中からクラス代表を決めるぞ!男女一人ずつだ!」


概ね理解できた。その課題というものが気になる所だ。

…クラス代表なんて面倒に決まってる、決め方もどっちかと言うと罰ゲームに近いものだし。ここは意地でもエミィかこころさんに行ってもらわねばならない。


「あ、そうだ。もし立候補する奴がいるなら歓迎だぞ!選挙がCiIの使い方ついでのゲームじゃ不満な奴もいるだろうしな。」


がははと笑っている神埼先生だが、まず普通に考えて自らそんな責任を負ってまで雑用に暮れる役職を進んで立候補するやつなんて…。


「はいはーい、先生。やってもいいですか?」


いるんだ。そうなんだ。


丁度僕の目の前、ミカさんが右手を高く上げている。


それを見てまた神埼先生は嬉しそうに笑った。


「お、先生嬉しいぞ。…えっと矢照だな。よしよろしく頼むぞ!」


「…あとは男子だな。いないか?もう女子は決まったぞ!」


…ほら、誰かいけよ、女子が手をあげたんだぞ。


が、しかし一向に誰かが動く様子もなかった。皆誰かが手をあげるのを待っている。


「おいおい男子情けないぞー!じゃあ、これで決めるだけだがな!」


がははと神埼先生はCiIを列ごとに配った。


……クラス代表なんてごめんだ。負けるわけにはいかないぞ。

僕はエミィとこころさんのいる方を睨み付けた。

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