第22話


「おはよう…ございます。嫁内空です。」


待て、このまま終わっていいのか…?

エミィについて何か言及せねば、疑いを晴らさねば…!


僕はじっとエミィを睨んで言った。


「エ、エミィとはそんな仲じゃありません。…一年間よろしくお願いします!」


当初の予定からは狂いに狂っていたが、これで後わだかまり無く自己紹介を終えられたであろう。


しかし、すぐ僕は自分の愚行に気づいてしまう。


"エミィ"とはそんな仲じゃ…。


バカか僕は…!!


僕へと拍手を送る者半分。ひそひそと僕とエミィについて話す者半分。

何もかもあいつが悪いんだ…!


視界の中でエミィがお腹を抱えて笑っていた。


3戦全敗だ。もう喧嘩を売るのはやめよう。後でエミィから弁解してもらおう。


失意の中に暮れるなか、志帆先生が声を張った。


「はい。これから皆さんはクラスメイトとなるわけですから、仲良くやりましょうね。時間割等の必要資料や教科書等はもう既に机の中に入っていますので確認お願いします。…ではホームルームを終ります。休憩に入っていいですよ。」


ごめんなさい。志帆先生。

仲良くなれそうになさそうだ。


特に青葉健、視線が痛い。


僕の勘違いだろうか、休み時間に入り各々が友人の方へと赴くなか未だ僕に視線を刺し続ける男が一人、歩み寄ってきた。


「やぁおはよう。嫁内君だったね?」


青葉健。にこやかに話しかけてくるが、笑顔は少し引き釣っている。


「お、おはよー…。」


目をそらし気味にエミィを探すが、居ない。


「これから一年、仲良くしていこうじゃないか!」


青葉健はそう言うとずいと僕の方に手を差しのべて、握手を求めてきた。

若干の恐怖心を持ちながら、僕もそれに応じる。


「それは置いといてだね。…空くん。」


ぐいっと顔を僕の耳元まで近づけ、囁くように言った。

いつのまにか下で呼ばれている事なんかその時の僕は気づかず、僕の恐怖心は最高点に達していた。なんせ180の巨体である。


「エミリーとはどのような関係なんだい……??」


はいはいどうせわかってましたよ。最初からそれが目的だったんだろう…!

がしかし、予期可能回避不可能とはこの事で、いい言い訳など思い付いていない。


「はいはい、どいてやー!お前はエミィとこ行ってこいや。」


そんな僕らの間を割ってはいるように関西弁少女たちがやって来た。メサイアである。


「なぁなぁエミィに告白されたってほんま!?」


不満そうにこちらを睨む青葉健など気にせずに、冬佳さんが驚いたような顔で言った。


青葉健の顔が歪む。


「無いよ!無い無い!!」


実際とんでもない噂の一人歩きである。昨日の一件を偶然目にした生徒がそんなことを言い出したのだろう。まさかカノ…?


「でもすっごい仲はええよなぁ。さっきなんてすごかったやん!」


興奮したように冬佳さんは言った。

違うんだ、エミィが勝手に…。


何て言えずに僕は肯定とも否定ともとれる苦笑いで済ませてしまった。


「私の話かしら?」


気を謀ったかのようにエミィが現れた。

今、この状態で話してボロがでる事は明白なので、僕は逃げるようにして席を立つ。


「ご、ごめん!ちょっと。」


逃げた先は一人ぽつんと座っているこころさんの席だった。

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