第21話


そろそろ拍手を送る手に倦怠感が帯びてきた。

初めはいい。初めてクラスの事を知れる、自分をアピールする機会なのだから。


だが自分の順番が大取じゃ話が別である。

無駄に考える時間があるので余計に緊張せねばならない時も長い。


加えてこの個性的な奴の巣窟みたいなクラスである。不思議と自分も特異にならなければみたいな変な思考すら働いてしまう。


遂に自己紹介の番が横の列の女の子の所まで来た。

カノに似たショートカットの女の子がスッと立ち上がる。


「はい、おはよーございまーす!冬佳蘭フユカランです!そこの関西人と同じ中学校から来ました!どオタクやけど、まぁ悪いやつやないんで仲良くしてやってください!!」


ニヒヒと悪そうな笑顔を浮かべてカノにウインクを送っている。受け手のカノは顔を赤くし、怒ったような照れたような表情をしている。


ふむ、この二人は仲良しと。注意せねば、まだトイレ未洗浄ハンドマンの汚名が晴れた訳じゃない。


順序に従い、前に座っていたミカさんが立ち上がった。


「矢照美香です。好きな事はドラマを見ることです。どうぞよろしくお願いします!」


ミカさんの自己紹介は聞くまでもなく、どこにも特異性も無く安心して聞けるものだった。そう、自己紹介はこうでいいんだ。意外な関係性も大声も、過度なアピールも要らない筈なんだ。


僕も普通で行こう。

普通に立ち上がって普通に自己紹介して、普通に座って普通に終えよう。大事な大事なスタートダッシュになるんだから。


しかし、僕が立ち上がろうとしたその時。


パチパチパチパチ。と小さな拍手が起きる。右前方前。


確認するまでもなく、エミィだった。


誰も、誰に対しても拍手を送るのは自己紹介が終わってからだったろう?誰が自己紹介開始前にしていた?


「あら、ごめんなさい。」


クラスの視線がエミィに集まり、エミィは頬を赤らめながら短く謝罪し、拍手を止めた。

あぁもう、無意識に拍手してしまったわみたいな顔してる。


…絶対わざとじゃないか。


出鼻を挫かれたわしたが、もうどうにでもなれと僕は立ち上がった。

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