第18話
「…そうだなぁ。」
演技者として、エミィについては気になる事が多いのだろう。クラスメイトについてまだあまりよく知らないのだが、やはり一番名が知られているのはやはりエミィだろう。
この僕ですら見たことはあったくらいだ。後日、母に教えられてテレビで見た人と同一人物だということを知った。
「じゃあまずはエミィから…。」
「エミィ?」
不思議そうにミカさんは首を傾げた。
ふふふと笑いながらミカさんは言った。
「愛称ってやつ?もうそんなに仲良くなったのね。」
そう言えば、そうなのかも知れない。エミィがエミィと呼ばせるのは何か深い意味が…。
「違うと思うな。たまたまそうなっただけだよ。」
うん、無いと思う。たまたま同じグループだったから表向きは仲良くしようとでも考えたんじゃないかな。
「それでそれで?」
「その青葉さん?に結構似てるやり方で。…なんだっけな、とにかく私に合わせなさい!みたいな。」
今語ってみれば実際酷い話なのだが、実際は僕たちの好きにさせてくれたと思う。
エミィが極度の緊張で指揮を取るのを忘れた。なんて万が一にも無いだろう。
エンディングまで自由にさせてくれたぶん、青葉って奴より幾分ましである。
「やっぱりそうよね。あのエミリーだもん、私なら一から十まで従っちゃうかな。」
意外にも、ミカさんはエミィについて幻滅する様子無く、むしろ憧れを抱くような瞳でそう言った。
「そんなに尊敬してるの?」
僕も小さい頃から演技が好きで、よくお母さんとおままごとをしていた。
そう。たかがその程度の僕の、彼女の事に対する知識は0といってもいい。
この前ネットで調べる前までは、随分美人だなぁぐらいの感想しかでてこなかったが、まず同じ空間で演技ができるなんてまずあり得ないことらしい。
…らしい。
「もちろん!今役者目指してる人の半分くらいは彼女の事を手本にしてるわ。知らない人なんてあなたくらいよ?」
それだ、僕が一番驚いたのは。
失礼にはなるが、あのこころさんでさえ前確認したとき、もちろん知っていると言っていた。
入学試験の時の緊張の約8割がエミィのせいだったとも言っている。
「…性格があれなのを除けば僕も尊敬できるんだけどなぁ。」
心の底からでた本音だった。
アレでなければ確実に惚れている。
「そこも好きだって人が多いのよ。…あらごめんなさい。邪魔かしら。」
ミカさんは僕の背後の何かに軽い会釈を交わした。
覚えのある、鼻腔を擽る甘い香水の香りに僕は背中に汗をにじませた。
「いいえ?楽しそうなお話をしてらっしゃるわねって。」
冷たく、凛とした声が響いた。
さて、問題はどこから居たか、どこまで聞いていたかだ。
昨日、演技だったとはいえ、一男女としてかなりいい雰囲気だったんだ、関係は崩してしまうとまた組み立てるのがややこしい。
ポンと華奢な手が僕の肩に置かれる。エミィの手は相変わらず体温が無くひんやりとしていた。
顔を上げなければ顔が見えない。だが目を合わしたくもない。
「初めまして、矢照美香です。テレビで"星のシナプス"見てました!」
ミカさんが口を開き、沈黙を破る。
ミカさんが言っているのは確か…。そうだ。たしかネットで調べた時に、まず一番上にでてきたドラマだ。
確かエミィは実らない恋に焦がれる子役…。
「ぶふっ…。」
思わず笑いが吹き出た。
ぐぐぐと右肩に力が込められる。細い腕からは想像もできない怪力だ。
「なにかしら?空。」
「…なんでも…ない…です…いたたた!」
そんな一芝居を見てかミカさんが声をあげて笑った。
「あはは!ほんとに仲が良いのね!!」
あぁこれはよく漫画とかで見る。声を合わせて男女が否定するシーンだ…。
そんな定番、はまってたまるか。
エミィに一泡吹かせてやる。
「だろ?」「でしょう?」
意外な返答にバッと顔をあげてしまった。
エミィはそれすら予期していたようで、見下ろす形で僕に微笑みかける。
「あら、両思いね私達。」
意地悪く、エミィが言った。
自分の顔が赤く染まっていくのがわかる。
あぁ、ミカさんの前ではできればかっこ悪い所を見せたく無かった。
視線を正面に戻すことすら億劫になり、頭の中では良い切り返し方を探していた。
…ダメだ、思い付かない。
少しの沈黙を挟んでエミィが笑った。
「私の勝ちかしら?じゃあまたね、王子様。」
エミィはそう言いながら僕の頭を小突いて自分の席へと戻っていった。
完敗である。
「…噂には聞いてたけど、ほんとに仲が良いのね。」
「どこが!?」
あぁ定番。はまってしまった。
そこで丁度朝のホームルームの開始を告げるチャイムが鳴った。
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