第17話
ーーー次の日
新しい制服に身を包み、清清しい気分で僕は校門をくぐった。
昨日、本当に色々あったけれど、もう全部演技だという結論に落ち着いた。じゃないと僕の心が落ち着かない。
エミィはまだわかる。こんなチェリー、勘違いさせればイチコロと考えたんだろう。実際効果はある。今僕の頭を悩ませるくらいには。
…しかしカノはどうだ。
暴漢(もしかしたら何か深い理由があって)から救われた男にこうも容易く分かりやすい態度を取るか?
答えはNOだ。フラグじゃない。お礼ついでに練習も兼ねたのだろう。そうに違いない。円義波高校というだけある、危うく騙されるところだった。
ドン。
下腹部に鈍い感触。
深く考え事をしていたせいで、前から歩いてきた少女に僕は気づけていなかった。
どうやらぶつかってしまったようだ。
ぶつかった相手は背の低い少女。最初はこころさんかと思ったが、違う、こころさんよりも一回り小さい。…まさか高校生じゃないよな…?
「……。」
少女の深い紫紺の瞳に見つめられて、僕の思考は一瞬ストップしていた。
が、すぐに自分がしたことを理解し謝罪した。
「ご、ごめん!怪我無い?」
少女は僕の問いかけに対し、こくりと頷いた。
しかしそれ以上のアクションは無く、また少女と見つめ合う形となってしまった。
いや別に遅刻しそうなわけじゃない、お腹が痛くて急いでる訳じゃない、俯瞰的にこの絵面は何となく不味い気がする。
「じゃ、じゃあ行くね僕!」
また少女はこくりと頷いた。
歩き出そうともしないので、何だか僕もとても行きづらい。
…実はめちゃくちゃ怒ってる?
しかし、無垢な(完全なる無表情)顔の前に僕の読心は働かなかった。
もう一度謝罪しようと試みたその時。
「……邪魔。」
確かにそう呟いた。無垢な(完全なる抑揚の無い)声で。
思わず僕は相手がまるで小学生の風貌な事すら忘れて、体を半身横へずらしていた。
特に何を言うわけでもなく、何か素振りを見せるわけでもなく、少女はスタスタと歩いていってしまった。
しかし僕はそれに対して憤りを感じる訳でも劣等感を感じる訳でもなく、ただ茫然としていた。
「何、つったってんの?遅刻するよー?」
そうミカさんに声をかけられなかったら、僕は本当に遅刻してたかもしれない。
その言葉で僕は、はっと我に返りそのままミカさんに礼を述べ、共に教室へ向かった。
「何してたの、あんな所で。」
怪訝そうにミカさんは口を開く。
幼児相手にびびってましたと言うには僕のプライドが許さなかった。
「ボーッとしててさ。ははは。」
あくまで機械的に対応した。一層ミカさんの顔が険しくなる。
「もー、ただでさえ変な子多いんだから。空くんだけは普通にしてて、お願いよ。」
ふふふと笑いながらミカさんは言っていたが、目に光が無かった。さぞ入学試験の時、メンバーに困らせられたのだろう。ミカさんとは気が合いそうだ。
「善処します。」
そのまま二人で教室まで歩き、席に座った。まだ生徒はちらほらとしか居ず、その中に知っている人はミカさん以外に居なかった。
特にすることも無く、手持ちぶさたにしていると、前に座っているミカさんにねぇと声をかけられた。ミカさんは一つの男子グループを指差している。
「見えるかな。今机にもたれ掛かってるあいつが、私と同じグループだった青葉健。どうもいけすかない奴でね…。王子役だったんだけど。慣れすぎてて逆に…っていうか。」
爽やかそうな笑顔に高身長、まるで僕と真逆の位置にいるような人だった。
いかにも王子様である。
「どんな感じだったの?」
容姿身長はともかく、僕と同じ役だったわけだ。遠回しにでもどのように演じたのか聞いてはみたい。
「やっぱり気になるよね。確かDグループの男子って空くんだけだったもんね。ライバル心??」
からかうように笑うミカさんに多少の恥ずかしさを覚えながらも、こうして普通の相手と普通の会話ができるだけで、僕は幸福だった。
「教えたげる、えっとね。まず一言で言うなら最悪。」
その二文字にどれだけの思いが込められていたのかはわからない。
しかし、少なくともプラスのイメージは沸いてはこなかった。
嫌な思い出を噛み締めるかのように、ミカさんは語る。
「女私だけだったからさ。必然的に私が姫で、空くんみたいにね。」
「文句つける訳じゃないけど、配役、シナリオ、オチ。全部アイツが決めちゃってさ。CiIの使い方も初めてなはずなのに完璧に使いこなしてて。」
「まるで人をただの操り人形みたいに、私たちすらCiIで動かそうとしたのよ?」
彼が俗に言う天才なのだろう。
まるで僕には想像がつかない離れ業である。
だが、使い方を誤れば今のミカさんのように憤りを感じる人もいるだろう。僕だってそれは嫌だ。
「…でもまぁ、ほぼ満点でしょうね。言うことなしだったわ全部。」
やるせない様にのびをして、ミカさんの話はそこで終わった。
なるほど、青葉健。
少し注意し無ければならないかもしれない。
「次は、君のグループの話。聞かせてよ。」
にこりとミカさんは微笑む。
僕は、二人の少女の顔を思い浮かべた。
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