第15話


先導するエミィの後を僕は付いていっていた。

なぜか、僕のとなりにこころさんはいない。


「すいません、私用事があるので!」


今更あがいていたこころさんにも驚いたが、すんなりそれを了承し帰したエミィにも驚嘆した。


そんな、それが許されるなら僕だって…!


過去を悔いてもどうしようもない。盗み聞きをしたのも事実だ。


「さて、ここらへんでいいかしらね。」


先を歩いていたエミィがくるりと振り返った。


僕の処刑場は校庭裏の小さな木陰だった。

ここなら人目もつかない、どうらやエミィは本気らしい。


僕は心の中でカチャッとナイフを構えた。こっちだってこれがある。


「今朝はごめんなさいね。見苦しい所を見せてしまって。」


どんな罵声が飛んでくるかと身構えていたが、意外にも第一声が謝罪という予想外な変化球に僕は言葉を失っていた。


「引いたでしょう?ファザコンだなんて。」


ふふ。と自嘲気味に俯き笑うエミィからはいつもの威圧感は感じられなかった。

電話越しの君、今朝のエミィがそこに居た。


「い、いや全然!?むしろ可愛いと思ったよ!?」


いざ僕の口から溢れたのは相手を傷つけるナイフではなかった。

クソザコ慰め手刀なでなでとでも名付けようか。


「…ほんと?」


上目使いに顔をあげたエミィの目は少し潤み、顔が少し赤かった、今にも泣き出しそうである。


女の涙は武器だと言うが、実際目の当たりにするとその相手に対する効果というものは絶大であるという事を知る。


もちろん僕にもそれは効果抜群であり、自分でも驚くほどたじたじになっていた。

…今思えばもうこの時点で僕は彼女の手のひらの上だったかもしれない。


「ほんとほんと!ギャップていうかなんというか!」


実際、嘘じゃなかった。

不覚にも可愛いと思ってしまった自分がいるし、何より今泣きそうな表情もかなりくるものがある。


「よかった…。てっきり嫌われてしまったかと…。これからも仲良くしてくれる?」


潤む瞳にじっと見つめられて、僕は今までの彼女の狼藉などもう一切頭の中から消え去ってしまっていた。


「も、もちろん!」


気がつけば僕は何度も首を上下させていた。

エミィはそんな僕を見て満足そうに頷きながら、するりと色の白い手で僕の手をとる。


「あの事は私達だけの秘密よ…?」


そう言いながらエミィは空いた手でシーと形作り、片目を瞑る。


目を合わせてはダメだ、惚れてしまう。

ヘタレな僕はあくまで自然にエミィの手を振り払った。


「うん、誰にも言わないよ。」


エミィの顔が少しだけ翳ったような気がした。

しかし、すぐに笑顔に戻る。


「ありがとう。…時間をとらせてごめんなさいね。また明日からよろしくね。」


そう言うとエミィは来た道を戻り行ってしまった。



僕は握られていた手の感触を思い出しながらしばらくそこに佇んでいた。

きっと僕にもモテ期的なのが来たんだろう。


…と、この前の僕ならなっていただろう。

が、今は訳が違う。


相手はあのエミィで、加えて演劇科である。思い返せば芝居染みていたし、うそ泣きなどお手のものだろう。


……でもまぁ、可愛かったかな。


惚れた訳じゃない、でもまだ余韻に浸っていてもいいだろう。



「ごめん、ちょっとええかな?」


さて、今日三度目の来訪だ。関西弁少女。つくづく今日の僕はついていない。


今日会いたくない人、トップ2であろう人の声が背後からした。


本当の処刑は今かららしい。


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