第14話


童心に返って熊の朝番組を見終わったの様な、妙な浮わついた気分で教室に戻った。


周りの生徒は、なんだあの熊だとか、懐かしいー!とか和気あいあいとした会話が弾むなか、もちろん僕らの間にそんな会話は一切なかった。


「あ、あの熊さん私大好きだったんですよー!」


そんな空気に耐え兼ねてか、こころさんがそう言った。


このままその言葉が虚空に消え去るのは勿体ない、僕もすかさず小さい頃はファンである旨を伝えようとした。


「あら、私もよ。あの子可愛いわよね。」


意外にも、僕より先に返事を返したのはエミィだった。


こころさんもさすがにそれを予期していなかったようで、少し返事にあぐねていたが、すぐに顔を輝かせながら嬉々とした声色で返す。


「エミィさんもなんですか!とくにベアちゃんがキュートですよね!」


私達仲良くできそうですねと言わんばかりにこれでもかと愛想のいい声だった。少なくともこの短い付き合いのなかで僕は初めて聞いた。


「そうかしら?くまちゃんもなかなかよ。」


うふふと優雅に声を返すエミィも上機嫌なようだった。


ふと僕はいつのひにか目にした短文を思い出していた。


"二人でいれば劣等感、三人でいれば疎外感"


その時の僕は言葉の意味がよくわからなかったのだが、今は痛いようにわかる。


「僕も、見てたんだよ!声もかわいいよね!?」


焦燥感に駆られ、思わず声をうわずらせながらも二人に声をかけていた。


さて唐突に話しかけられた二人の反応も意外なもので、エミィの方はほう、と頷くように引くそぶりもなく。


問題はこころさん。

見下すようにニヤリと笑って、何焦ってるんですかと蔑むように「そうですねー」と返したのだ。


エミィ好感度争奪戦でもやってる気なのだろうか、生憎そんなもんは全部くれてやる。今僕が欲しいのは疎外感を癒す会話なのだ。


しかしそんな僕の期待むなしく、会話が弾む間もなく教室に着いてしまった。

自然解散するように各々の席へ戻る。

依然二人は楽しそうに話している。

…別に羨ましい訳じゃない。僕だってエミィとあんななふうに話したかった訳じゃない。


ふて腐れ気味に席につくと、待ってましたと言わんばかりに前の席の子、ミカさんが振り向いた。


「改めまして、これからよろしくね!」


伸ばされた右手に握手で返し、ミカさんはウインクをした。

女の子らしい素振りに少しドキリとしてしまう。


余韻に浸っていると、息を切らした志帆先生が教室へ入ってきた。


「…では…帰りのHRを…始め…ます…!!」


冷静沈着なイメージの先生がこれほどに崩れている様を見せつけられ教室は静まり返った。


「…少し時間をください…ふぅ……。」


そう言うと志帆先生は息を整え、いつもの涼しそうな顔に戻ったようだが、滴る汗は隠しきれていない。

どうしてこんなにも消耗しているんだ…?


「…改めて、明日の連絡から。」


「明日から本格的な授業が始まります、教材は明日配布しますので持ち物は鞄以外要りません。もう家に制服が届いているはずなのでそれを着用し、登校してください。」


「他に質問はありますか?」


何事もなかったかのようにたんたんと言った。

誰も手をあげず、それを先生は一瞥し続ける。


「…無いようですね。では起立。」


「礼。」


さーて、今日も無事に終わった。


ついに明日から僕の夢の生活が…!

全くもってデジャビュである。


「さて、ごきげんよう?」



背後から声する。ここまでもデジャビュ。

もうこの展開にも慣れた。

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