9.
赤江さんはその言葉を受けて頷いた。
「ああ。ようやく言えたな」
唇を引き上げて、赤江さんは微笑む。
「生きていたら誰かを不幸にする。上等だ。だったら俺が一緒に不幸になってやるよ」
その言葉に私が顔を上げると、赤江さんが心なしか胸を張って言った。
「だから。何度でも俺が引っ張り上げてやるから、上がってこい。
お前の命はお前が考えているより重いんだぜ。もう腕が疲れてきやがった」
絶対に言わないけど。
その姿は、私には素敵に見えた。
嘘ですけどね。
引き上げた私の手首に、赤江さんは数珠を巻いた。
桃色の可愛らしいそれはまるで流行のアクセサリーのようで、男の人からそんなプレゼントをもらったことがない私は照れてしまう。
「手首に首輪をすることで、お前の犬神の力を制御するようにって代物だ。まあおまじない程度のものだが信じるものは救われるってやつだな」
「……ありがとうございます」
素直にお礼を言って私は押し黙った。
「ん?どうしたその微妙な顔は」
「いえ、男の方に贈り物をもらうのは初めてなので」
「本当か?蓉子は可愛いのにな」
「……そういうことを軽く言わないでください」
さらっと告げられたその言葉に私は顔がさらに熱くなってしまう。
「冗談だ。ああ、可愛いってのは真実だが、確かにお前ぐらいの年のやつにぽんぽんと言っていいことじゃないな」
「自覚があるならいいことです」
私はそう言ってふと疑問に思ったことを聞いた。
「お前ぐらいの年、と言いましたが赤江さんって何歳なんですか」
「ん?俺か?まあ外見二十代くらいに見えるだろうが、千年は生きているな」
同じく軽く告げられたその言葉に私は驚く。
やはり人間じゃなかったか、と思う気持ちもあるがそのスケールの大きさについていけない。
私は話題を変えるように言った。
「ねえ赤江さん。私は世間でよく言われているやらずに後悔するくらいならやって後悔した方がいいって言葉に、でもやらないほうがいいこともあるのでは。と思うんですよ」
「それはそうだろうが。例えばなんだ」
「自殺とか、ですよ」
私がそう言うと赤江さんはぽかんとしたような顔をした後、ふっと微笑んだ。
「そこまで冗談が言えるようならもう大丈夫みてえだな」
赤江さんは軽く衣服を整えると言った。
「じゃあ、帰るか。送るぜ」
そう言うと赤江さんは私の手を握った。
「この閉鎖空間ではぐれても困るし、エスコートなんて柄じゃねえがお嬢さんにはこうするのが礼儀ってもんだろう」
その手慣れた姿に、なんだか私は悔しくなってしまうがここは言葉に甘えておくことにした。
心の動揺を見せないように。
余裕たっぷりに微笑んでみせる。
「ええ。お願いします」
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