第3話 一瞬の人見知り

「昨日はあんまり説明出来なかったから、今日寝る前までにキッチリ、仕事について話すぞ。」


「就職した覚えはねぇっす……」


「夢歌人はなった時点で永久就職だ、諦めろ。」


「結婚かよ!」


厳しいえりかとふわふわ微笑む千果。


「とりあえず、神咲さんが学校に存在してる事と、昨日のがちゃんと神咲さんって事が確認出来たし、俺は教室に帰る。昼休みに詳しく説明するから。」


えりかは教室に帰っていた。


「春菜さん、改めてよろしくね。」


「あ、はい、よろしくお願いします。」


「春菜さん、どこも痛くない?動いてて変な感じとかしない?」


「はい、異常ないです。」


「良かった、えりか以外に治癒をかけて現実世界に戻ってきたの初めてだから。治ってなかったらって心配してたの。」


「あの、おかしな事を聞くかも知れませんがよろしいですか?」


「うん、いいよ?」


「昨日3人で同じ夢を見ていたという事でしょうか?」


「夢だけど、夢じゃなかった!」


若干何かの声マネをし、わーっと両手を上げる千果。


「あっ、はい。」


「そこは昨日みたく、ト〇ロってツッコんでくれなきゃ、モノマネ恥ずかしいんだよ!」


千果は真っ赤な顔でワタワタする。


「あっ、すいません。」


「何で今日は敬語なの?」


「あ、あの、基本的に敬語なので。」


「昨日凄く軽快に敬語じゃなく喋ってたよね?」


「あれは夢の中ですから。」


困ったように微笑む春菜。


「もぉー!これからずっと戦う仲間だよ!もっと自然体で接してよ!」


プンスカ、口を尖らせ頬を膨らませる千果。


「……そこまで言うなら。……ちぃちゃんよろー!」


「ちぃちゃん?」


秒で態度が変わった春菜に、ビックリする千果。


「うん!千果ちゃんだからちぃちゃん!ワシの事も呼びやすいようによんでくれ!」


突然、人の変わったような無邪気、元気、ハイテンション。


「えっ、えっと、春菜さん?」


「んー、硬い!バ〇サンとか、かんちゃくとか、チビとか、ばかんちゃくとか、セクハラマンとか!好きなよう呼んだら返事するよ!」


「えっ、なんか凄い呼び方だね……」


「うん!全部小学生と中学生の時のあだ名だよ!」


「え、あの、すごいね……。とりあえず春さんで良いかな?」


「ん、ええよー!ちぃちゃん早速だけど……」


「うん?」


「いきなり大きな声でこのキャラやっちゃったからこれからの高校生もこのキャラでいくしかないよね!めっちゃ見られてる!どないしょ!?今からでも猫かぶれるかな?」


「……春さんには無理だと思う。多分猫じゃなくてライオンの皮とか被る感じだと思う。」


「百獣のかんちゃく!とりあえず昨日から気になってた!おっぱい!何カップっすか?」


千果に抱きつく。

身長差的に割と小さめの春菜は顔を胸部分に埋もれる。


「えっと、わかんない。いつも母に選んで貰ってるから……」


困り顔で答える千果。


それから予鈴が鳴ってホームルームが始まるまで、春菜と千果は他愛ない話をした。





昼休み、えりかは2人の所に向かおうとした。


バーン!!!


B組のドアが勢いよく開けられる。


「ボスー!!!呼ばれてないけどかんちゃく参上!!」


アレは、見間違え、昨日の子ではない、うん、きっと……


えりかはそちらから目を逸らし教室から出ていこうとする。


「もぉ〜、春さん!あっ!えりか!お待たせ!」


おいおいおいおい!こっち来んな!


「ボス〜!!!」


えりかにダイブして抱きつく春菜。


「ちょっ!おま!やめろ!」


「そんなぁ〜ボス!つれないぜ!私とボスのなかやろ!」


「しらねーよ!出会って2日だよ!後ボスってなんだよ!」


「えっ?なんか司令塔みたいな?ボスぽいからボス!隊長とか司令官様とか御主人様とかドンのがよかった?」


「どれもイヤだよ!」


「もぉ〜春さん!入口だと邪魔しになるよ?」


「おぉ!せやな!」


「そこじゃねぇだろ!とりあえず離れろ!」


「嫌だぁ〜!捨てないで!私離さないから!!」


昼ドラ風。


「ぶん殴るぞ?」


「ぼーりょくはんたーい!へんたーい!」


「二人共、そろそろ学食行こう?」


「へーい!」


「おう、おい、離せ。」


「ん?離さんよ?」


「えりか、春さん飽きるまで離さないから諦めて……」


「どうした千果、なんか、すっげぇ疲れてるぞ?」


「ママンお疲れなの?」


「うん?春さん?誰のせいでおつかれなのかな?」


笑顔だがどこか怒りが見える。

気にしない春菜


「もぉー!ボスー!ママンがつかれちゃってるじゃん!」


「いや!疲れさせてるの確実お前だろ!てか、ボスとママンってどういう呼び名だよ!」


「ん〜、春さんずっとこんな感じで。私が窘めてたら皆が母親かよとか飼育員とか呼び出すから……。飼育員は嫌だし母にしてってなって、そしたら春さんママン呼びになったの……。」


「それは、なんと言うか。……お疲れ。」


2人は春菜をジト目で見る。


「なになに!二人共変な顔でかんちゃくを見て!あっ!あれか!疲れたからかんちゃくを見て癒されたいという!?ふっ!存分に見るが良い!」


「殴っていいな?」


「うん、えりか、おもいっきり。」


バチーン!!


真顔でビンタ。


「おっふ!痛い!親にも割と殴られてるのに!!」


「早く行くぞ……。」


「春さん大人しくして。」


「ワン!」


「よーしよしよしよし。」


春菜の頭をわしゃわしゃ撫でる千果。

2つに結った髪が尻尾のように揺れる。


「犬かよ!」


「はっ?人間だし!」


「春さん、お手。」


お手をする春菜。


「ワン!」


「よしよし。はい、飴ちゃん。」


千果がポケットから飴を出して春菜に渡す。


「わーい!」


ボリボリボリ


「なんなんこいつ?」


「こういう子だと思って諦めよう?行動力と知能と身体能力は授業と逃走と会話で保証する!」


「……これでか?てか、逃走って。」


「ねーねー」


春菜を無視して話し出す2人。


「うん、こんなんだけど入学式首席だし、授業中は普通に真面目で普通にノートみたらわかりやすい。先生からの問題にも堂々と手を挙げて率先して答えてる。」


「そう言えば頭いいんだよな、今のでただの馬鹿だと認識したけど。」


「ねーねーねー」


「うん、あとね、会話でもよく分からない雑学混ぜてきて、多分戦いにも使えるんだろうなぁって思った。」


「雑学かぁ、想像出来ねぇ……。」


「ねーねーねーねー」


「逃走……、については、女子のスカートめくりしたり、胸を揉みに行ったりしてそれを私が止めに行くんだけど、走る、登る、飛び降りる、隠れる……。捕まえるの男子にも協力して貰ったんだけど……」


「なんて言うか、本当にお疲れ。」


「ねーねーねーねーねー」


「うん……」


「ああ゛もう!うるせぇ!!」


「だってぇ〜話が長い〜!かんちゃくは話に入れなくてとても寂しかったです!お腹がすきました!」


「……コイツとこれから一緒に戦うのか。」


「うん。」


「放置して別行動した方がよくないか?」


「下手に放置したら総夢世界壊しそう……。」


「……。」


3人は食堂への道を歩きながら話す。


「かんちゃくあれだよ!そーむせかい!守るよ!戦うよ!多分強いよ!」


「戦い方きいたか?」


「歌で魔法が使える!そんでもって普通に剣とかでも攻撃できる!てか、何で歌?」


「あー、千果あんまりその辺の説明苦手だからなぁ。」


「ごめんね、私その辺教わったけどよく理解できなくて、どう説明したらいいか分からなかったの……。」


「春、子守歌ってあるだろ?」


「おう!……あっ!そういう感じ?」


「ん?」


「子守歌は子供が眠る時に親が歌う歌。眠ると夢を見る!それで夢が造られて総夢世界になるから割と歌が世界に溶け込んでて、歌うと魔法になる的な?」


「おう、総夢世界の大体の成り立ちだ……。」


「えっ?マジ?知ったかして、適当に言ったんだけど……」


「適当か……。」


「ね?頭の回転は早いでしょ?直ぐに会話に溶け込むしずっとその会話してた気がしてくるの。」


「なんて言うか、馬鹿なのにすげぇなぁ。」


「うん、馬鹿なのに……。」


「もぉ〜!馬鹿馬鹿言われるとそこそこ傷つく気がしないでもない!」


「傷つかないでしょ……」


「お前メンタル、金だわしだろ……」


「ひっどーい!」


話してるうちに食堂に到着し、食事を受け取り席に着く。


「夢歌人については?」


「なんかこっちの人の魂的なのが向こうに飛ばされてまた戻って来てって仕組みで、総夢世界が自力でどうしようもない危険が迫ってるとこっちの世界の適してる人から選ばれる!」


「おう、昨日も説明した通り。総夢世界にも普通に戦える奴は居るけど夢の世界の夢で出来た人より、その夢を作るこちらの世界の魂の方がパワーが強い。だから此方から選ばれる。」


「へー!」


「そうなんだぁ。」


うなづく春菜と千果。


「千果?本部で先輩から説目受けたよな?」


「うん?難しくてよく分からなかった。」


ニコニコ笑う千果。


「ママン?今のは理解出来た?」


「えっと、私達は総夢世界の人より強いから総夢世界の人が倒せない人を倒すためによばれて……えっと、魔法は、歌うと使える!」


「……千果。」


「まぁ!戦えてるんでしょ?ええんちゃう?学校の勉強が実践では意味無いのと一緒で!歩くのに人体の作りを理解して無くても歩ける!それと一緒でしょ!」


「それっぽい事言ってるけど、なんか違うような、合ってるような……。」


「まぁ、難しい事はいいじゃん!ねー!ママン!」


「うん。それよりご飯食べたらえりか?」


モグモグ


気づけば既に半分ほど食べている春菜とほとんど食べ終わる千果。


「ちょ!お前いつの間に!」


「ボス〜早く食べて遊ぼうよぉ〜!」


「はぁ?遊ぶってなにすんだよ?」


食べ始めるえりか。

野菜を避けながら食べる。


「鬼ごっこ!」


「小学生か!食ったばっかりで動けるわけねぇだろ!初等部に紛れ込んで遊んでこい!」


「トレーニングになるよ〜?」


「はずかしいわ!」


「ちぇ〜、ちびっ子に混ざってくる〜。」


「春さんの見た目なら混ざっても多分違和感無いよ……」


諦めた笑顔の千果。

食べ終わった春菜は食器を持って立ち上がる。


「じゃ!行ってきます!」


敬礼をする春菜。


「えっ?ガチで行くのか?」


「春さんだから。」


「初等部から体操服はほぼ一緒のデザインだよね?着替えてくる〜!もう説明とかないでしょ?後は寝てのお楽しみ的なやつでしょ?」


「おう……」


「ちっちゃい子いじめちゃだめだよ?」


「うん!良い子に遊んでくるぜ!」


グッと親指てていい笑顔で春菜は食堂を後にした。


はぁ〜、食った食った〜。

それにしてもこのキャラ疲れるわァ〜

ん?めっちゃ木がガサガサいってるやん?


初等部に向かう途中の中庭。

揺れる木。

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