第2話 あの、夢で会ったり……
「
大きな胸を見ないと女とわからないボーイッシュな黒髪の少女が長い襟足の髪を靡(なび)かせ猛ダッシュしてきた。
桃色の髪の少女の手を取り心配そうに見つめる。
「大丈夫だよ、えりか!」
優しく微笑む桃色。
ホッと肩を撫で下ろした黒髪。
思い出したかのように金と紫の瞳が春菜をうつし、紳士的な笑みを浮かべた。
「よかった、君も大丈夫だった?」
「あっ、へい!助かりやした!!」
「……変わった子だね。」
「でもこの子多分新入生代表の子だよね?」
「はへ?」
「あっ、初めまして。私は
千果は微笑んだ。
「えっ?こんなピンクの髪めっちゃ目立つのに気づかないとか……。あっ、やっぱり夢か!」
「ああ、まぁ、夢っちゃ夢だな。」
黒髪は苦笑いして答えた。
「ココは
「はあ?」
「えっとねぇ、ココはね皆の夢が創られる場所なの……」
2人が言うには
この世界は
夢でできた、夢を創るせかい。
夢と現実の橋渡しをしている世界。
2人はこの世界の秩序を守る。
総夢世界は夢と現実を繋いで居るから、総夢世界が壊れると。人は夢を見づらくなる。
夢を見れないと人は夢と現実の狭間に落ちて、消えてしまう。
それを守るのが現実世界からやって来れる夢歌人。
夢歌人は歌の力で魔法を使うことが出来る。
こちらの総夢世界の人間より、夢の大元の現実世界の人間の方が力が強いため、召喚される。
召喚されるのは眠っている時だけ。
☆
「凝った設定の夢だなぁ……」
「まぁ、こんなアホみたいな事、現実として受け止められないだろうけど、何回か経験していくうちに夢だけど夢じゃないって解る。」
黒髪がクールに答える。
「ト〇ロ?」
「ジブ〇じゃねーよ、まぁ、アニメみたいな設定だけどな。」
「はい、うん。」
「まぁまぁ、えりかそれよりそろそろ帰る時間だよ?明日どうするか考えとかないと!」
「おっと、そうだな。」
背中が痛み出した。
「っててて、」
「ん?どうした?」
急にあちこち痛み出す。
特に鎖骨が痛すぎる、後若干変な形になって腫れてる気がする……
「さっきうさぎ先輩に蹴られ所が痛みまして、なんと言うか。鎖骨的な所が折れてるっぽいけどアドレナリンで何とかなってた所、気が抜けてすこぶる痛い。」
痛くて脂汗が出てくる。
「わぁ!たっ、大変!すぐ治すから!」
「治癒は俺より千果のが得意だから頼む。」
「うん、任せて!」
千果はふぅ、と息を吐くとそっと春菜に手をかざし歌い出す。
「痛いの痛いの飛んでいけ〜♪」
優しく言われると痛みが消える。
「おぉ!痛くない!」
「千果、それだと唯の痛み消しだろ、痛いのだけ無くなって足が折れてるのに気づかなくて歩くのがおかしくなってやっと気づきた時歌を考えただろ。」
「あっ、そうだった、ごめん。うっかりしてた。」
「まったく、仕方ないなぁ。」
黒髪は微笑む。
けどだいぶ危ないうっかりだ……。
「癒しの湖キラキラと嫋やかに神咲を癒して元通り〜♪」
治った気がする。
折れてたであろう鎖骨を指で押してみるが違和感は無い。
「ん、大丈夫みたいだな。」
「えっと、ありがとうございます岩瀬さん。」
「いいえ〜。それとこれから一緒に戦う仲間だもん千果でいいよ。」
ニッコリ微笑む千果。
「うん、ありがとう千果ちゃん私も春菜でいいよ〜……って?戦う?」
「ありがとう春菜さん!うん!この世界に来たってことは貴女も夢歌人。総夢世界を守るために戦う人だよ。」
ニコニコと笑う千果。
「おっふっ、マジか……。まぁ、夢なんだからええか。」
「夢だからとかあんまり考えない方がいいぞ?」
黒髪が真面目な顔で言う。
「へっ?」
「この世界で怪我をすると現実世界でも同じ怪我を負ってる。つまりこの世界で死ぬと死ぬ。」
「うへーまじかぁ。」
「今は夢だと思ってそうやって聞いてるけど実際に怪我した時困るのは神咲さんだからな。」
「こわぁ〜。」
「まぁまぁ、えりか。多分死なないよ。死ぬほど痛いとかで動けなくなるかもだけど。ほら、この世界での傷とかの症状は病院にかかっても治らないし、精神的なものでしょうって最初の頃言われたし。きっと向こうの世界では永遠に目覚めなくて痛いだけだと思うよ?」
「えー、サラリと怖いこと言うね千果ちゃん……」
「えっ?」
「まぁ、そうなる事は間違いないからそう思っとけ。」
「えー、えっと貴女、えっとえりか、ちゃん?もこわいわぁ。」
「まぁ、事実だし。」
「そう言えばえりか、自己紹介!」
「ん?あぁ、俺は
「あっ、同じ学校なんすね、てか、目の色目立ちますね、カラコンっすか?」
「いや、自前だ。この世界に来ると変わる。」
「へー、」
「神咲さんだって変わってるだろ?」
「へっ?」
「はい。」
千果がポケットからコンパクトを取り出した。
鏡に映る自分は自分の顔なのに瞳が赤で髪も赤い。
「うぉ!まじか!」
「ふふふ、この世界に来ると、この世界独特のルールなのかな?髪とか目とかが得意な力によって変わっちゃうみたいなの。」
「はー、へー、」
「私は水と愛の力が強いからピンクの髪に水色の瞳なの。」
「俺は闇と雷が得意だから黒い髪に金と紫の目だ。」
「なるほど。わたしは?炎?」
「多分な。詳しくは本部に行かないと分からないけど。」
「本部?」
「あぁ、夢歌人の本部だ。」
「総夢世界の異常を観測して夢歌人を現地に向かわせる事務所よ。」
「なるほど。所で2人の服装がファンタジーなのに対して私が中学ジャージなのもこのも能力に反映されてなの?」
「ううん、それはね、眠っている時身に付けているものがこっちの世界に反映されるだけだよ。」
「だからまぁ、俺達はこの世界で着替えてる。そのままの服装だと街で浮くからな。」
「街なんて有るの?」
「おう、この世界にはこの世界に産まれた住人が居るからな。元々俺達みたいに現実世界からやってくる夢歌人が稀なんだ。」
「へぇー。」
「ねぇ、そろそろ本当に時間だよ?」
「おう、そうだな。神咲さん明日また寝たらこの位置に居る。とりあえず、学校で詳しく説明する。じゃぁ明日な。」
返事をしようとしたらすぅっと暗闇に包まれる。
眩しい気がして目を開けると、そこは自分の部屋でベットの上だった。
☆
「はるこ〜いい加減おきな〜!今日から家じゃなくて寮から通うんでしょ?遠いんだから。送っていくの今日だけだよ?」
「へいへい。」
居間から大声で話しかけてくる母に返事をする。
テキパキと着替えながら昨日の夢を思い出す。
我ながらファンタジーな夢だったなぁと思う。
「はる!早くしなさい!遅刻するよ!」
「準備かんりょーっす母上!」
「とっとと飯を食え。」
「はるねぇちゃん!本当に今日から帰ってこないの?」
弟の智弘が不安そうに向かいに座りパンを齧りながら見つめてくる。
図体はでかくなったが可愛い弟だ。
「ともくん、ちゃんと休みにはけぇってくるから。」
「次の休みは俺川口の家に泊まる約束してる……」
「お前、寂しそうにしといてそういうとこだそ、お前!」
「ねぇーさんは!その日はるこを待ってるよ!予定がないよ!」
姉の波季はパンに納豆を載せながら手を挙げて主張してくる。
「波は休日出勤になるかもしれないから予定入れてないだけだろ。」
新聞を読みながらいちご牛乳を飲む父がすかさずツッコミを入れる。
我が家の貴重なツッコミ要員である。
「おとん、黙れ。」
「社畜乙!」
「ふっ、母はその日はるこの好物を用意してまってる。」
母は台所でガチャガチャなんかしながら会話に入ってくる。
「白米と生卵そっと置いて待ってたら生卵投げつけるよ?」
「かぁーちゃん、はるねぇの受験どうせ落ちると思ってたからお祝い用意してなくて急いで卵とご飯用意してたね……。」
「肉を食わせろ。」
「ちゃんとデニー〇つれてったやろ!」
「母、普通娘が偏差値高い学校受かったらもうちょっと奮発するでしょ?」
合格祝いはファミレスだった。
「……春菜、遅刻するから車に乗りなさい。」
「そうやって誤魔化す!」
「なんだ?送っていかなくてもいいんだぞ?初日から遅刻か!」
そんな慌ただしい朝を終えて、寮生活になるのが少し寂しく思いながら登校した。
行きの車でずっと山〇百恵ちゃんの歌を母と2人熱唱した。
☆
教室に着くと早めの時間だが既に何人かのクラスメイトが居てお喋りをしたりしていた。
さっと、観察したが会話に入れそうな所がないので様子見をしようと、自分の席につき本を取り出した読書しながら何となく音として周りの会話を聞いていた。
「岩瀬ちゃん!えりか君!おはよう!」
「おはよう前野さん!」
「おはよう。」
……ん?聞き覚えがある声と名前。
誰か近づいてくる。
本から顔を上げると、昨日夢で見た2人が通常の髪と瞳の色で居た。
「春菜さんおはよう!」
ニコニコ微笑む千果。
「おはよう、神咲さん。」
「……おっ、おはようございます。」
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