第3章 4-1 術中にハマる
ズゴゥアア……!! だが桜葉には大歓声で爆音も聞こえない。ユズミはゲージを四割近くも減らし、全体で半分以上無くなった。そしてドラゴンからぶっ飛ばされた。
「ウワッ!」
桜葉も驚く。なんとアークタもドラゴンから槍を持ったまま飛び降りたではないか! そして爆発とダメージの衝撃で硬直するユズミめがけ、槍を両手の逆手持ちにし、突き立てる格好のまま落ちてゆく。高さもそれほどあるわけではない。ものの二、三秒でユズミが背中から地面へ叩きつけられて小ダメージ!
その真上にアークタが落ちてきて槍を突き立てた!
ドッ! ブァグァアッ……!! 大爆発と共にキノコ雲のような黒煙が上り、連続超クリィティカル効果でユズミのゲージが一気に赤へ染まった。
勝利のファンファーレ。なんとユズミへ剣を抜かせる間もなく、怒涛の攻めで勝ってしまった。
(どっっひぇえええ……!)
桜葉め、自分がどうしてアークタに勝てたのかわからぬ。
4
「なにより、駆け引きが素晴らしかったです! アークタは、勝利のためになりふり構わずユズミへ勝負を!」
控え室で、クロタルが熱弁をふるった。
(ユズミは、アークタの『術中にはまった』ってやつなんだろうなあ)
クロタルの興奮をよそに、桜葉は逆に冷静だ。剣ではおそらく、いわゆるストリートファイト系のアークタは正統剣法のユズミにあまり勝てないのだ。それで、できるだけ先にランスでダメージを与えておくべく、矢を使いきらせる戦法をとった。ユズミもおそらくその戦法に気づいていたはずなのだが、うまくリードされてしまったうえに、アークタの攻撃が上手に「はまった」のだろう。ランスだけで勝ったのは、アークタも予想外だったのではないか。
(それにしたって、あの注意の両者ダメージもアークタの計算だった可能性もある)
ユズミが、柄にもなく焦ったのかもしれない。その焦りが、アークタの攻撃が「はまった」要因か。桜葉も、もっと申し合いをして戦法を相手に知られると、ああいう念の入った対処をされるのだろう。その前に、勝てるだけ勝たなくてはならない。
(ハイセナキス、おもしれえな)
他人事のようにそう思ったが、明日はそのユズミ戦だ。
「これで、三人が一勝一敗で並びました! 賭け相場も大混乱。侯も、たいそうお喜びでしょう!」
「はあ……」
自分は賭けられないので、オッズなどどうでもよかった。
夕食を終えて、部屋へ戻る。
「ではまた明日」
クロタルが部屋の前まで見送りに来てくれた。
桜葉は明日の午後、第六試合でユズミとやる。午前中の第五試合は、アークタ対ランツーマだ。
(そのどっちが勝とうと、おれが勝てば夜に決勝。ユズミが勝っても夜に決勝……かあ)
脳内シミュレーションをやってもやってもきりがない。
(もはや、なるようになる。人事を尽くして天命を待つ)
かっこつけてそう思ったが、人事など何も尽くしていない。
ため息をついて、あきらめて静かにしているうちに朝を迎えていた。
(またやっちまった……)
とも思ったが、休眠モードへのスムースな移行に慣れてきたと考える。明らかに魔力炉の回転が軽やかなので、それはそれでよい。
水を補給しながら、ぼんやりとクロタルが迎えに来るまで窓の外を見やる。競技場の一般出入口側とこの宿舎とは正反対で、ここまで一般人が入ることはない。入っていたとしても警備員がいるはずだった。
「?」
見たことのない連中が、早朝から敷地内をウロウロしている。数は五……二人増えて七人か。いわゆるフード付ローブ姿で、キョロキョロしつつ、集まってヒソヒソやっている。あからさまに怪しい。しかも、連日晴天の空を見上げて、指をさしてなぞっている。
(なんだ、あいつら)
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