第3章 3-5 第4試合 アークタ対ユズミ

 これは桜葉の想像だが、アークタはチンピラというよりギャングか暗殺者の剣を使うが、ユズミは騎士か宮廷の衛兵の剣筋であるように感じられた。正統派も正統派だった。つまり、洋の東西というか世界そのものが違うが、ユズミの剣は型をしっかりやっている人間の筋だ。間違いない。


 そう考えると、アークタの殺気だってギラギラした凄味と、ユズミの堂々たる態度にも納得がゆく。あくまで、想像だが。


 (ドラムに入る前の過去は、人それぞれなんだな)


 それを互いにペラペラしゃべったりもしない。それは桜葉も助かっていた。リーマン時代の話などできようはずもないし、したところで狂人扱いだろう。また、桜葉自身にそういう嗜好も無い。


 二人が競技場の真ん中で対峙し、スタートを待つ。だいたい距離は三十メートルだ。競技場自体が小学校のグラウンドほどで、直線で百はとれないだろう。それほど広くない。地方大会だからだろうか。


 ファンファーレが鳴り渡り、歓声がどっと上がる。二人がドラゴンを操り、一気に上空へ飛んだ。


 「うおお!」


 桜葉も声が出る。この空中戦は見ものだ。ユズミの高速飛行は先日のランツーマ戦のとおりだが、アークタも桜葉とやった時よりはるかに高速でドラゴンを飛ばしている。これは、明らかにユズミ対策だ。あまり速くても、ランスチャージをしかける間がない。そのまま特攻めいて突っこむのなら別だが、チャージはいったん力を溜める「間」がいる。


 また、長弓なので連射はできないと考えていたが、ユズミの撃つ速度は充分に「連射」といえた。やはり弓も凄まじい腕前だ。


 だがアークタは、それ以上の速さで矢を避ける。


 そのアークタがドラゴンを急旋回させて位置取りに入った瞬間、ユズミめ、流れるような動きでその位置めがけて「先撃ち」する。ただ動いている的へ当てるのではない。敵の移動方向、速度を予測して矢をその先へ「追いておく」大変に高度な技だ。桜葉は、あんなものを実戦で見られるとは思わなかった。


 しかしアークタ、絶妙にドラゴンをずらしながら飛び、矢の到達した瞬間、ドラゴンの装甲へヒットさせて矢を防いだ。ドラゴンにも魔法防御がかかっているうえ、装甲ドラゴンはこの程度の矢ではびくともしない。すなわちアークタはユズミへ自らの飛行を予測させておいて、矢の到達地点でその予測を僅かに外し、ドラゴンを利用して防御している! またユズミの腕前を正確に把握し、必ず自分へ当ててくることを逆予想しての行動だ!


 一瞬の攻防に、桜葉は愕然とした。観客には「ユズミが適当に撃った矢がたまたまアークタのドラゴンの装甲に当たって弾かれた」ようにしか見えないはずだ。証拠に、大きくどよめいてもいいはずなのに、歓声の大きさが変わらない。誰も気づいていないのだ。


 (まじかよ……!!)

 いきなりレベルアップした戦いに、桜葉、頭が真っ白になる。


 続けざまに撃った矢もかわされ、急減速したアークタが旋回から向き直って一気に吶喊に入る。ランスチャージ! すさまじい速度でユズミへ迫る! ユズミが真正面から一矢放つと思せておいて、構えから射らずにぎりぎりでかわした!


 (牽制かよ……!)


 アークタほどの腕前なら、早々にユズミが逃げたら軌道修正しそれを追ってチャージすることが可能だ。ユズミはわざと迎撃すると見せかけて、寸でにかわしたのだ!


 だがそれも観客には伝わらない。

 「つまんねえぞ!」

 「まじめにやれ!」

 「ちゃんと戦え!」

 そんなヤジが飛ぶ。桜葉はそれにも驚いた。


 (こいつら、こんなに盛り上がってるくせに、なんにもわかっちゃいねえええ!)

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