第3章 3-4 まだ1勝1敗

 なんにせよ、かなり気分転換となった。美味しい食事は大事だ。ただの餌ではない。人生の潤滑油だ。水も飲み、また酒もいつもと違う味のものが出てきた。他の国の酒だろう。グルメブームに栄光あれ。


 「負けました」

 食事が終わり、人心地ついてようやく敗北を受け入れられた。

 「どうしましょう。どうしたらいいんですか」


 「まだ一勝一敗です。午後のアークタとユズミの結果を待ちましょう。ユズミが勝ったとしても、明日、アナタがユズミヘ勝てば二勝一敗同士です」


 「そ、そうか」


 「もしアークタが勝てば、一勝一敗で四人が並びます。そしてどういう結果になろうと、明日二勝一敗が二人となり、決勝戦が行われます。みな、喜びますよ」


 「なるほど……」


 桜葉は明日のシミュレーションをする前に、刀をチェックした。相当派手にやられた気がしたが、刀そのものは魔法がかかっていて、損傷が無い。しかし、鞘が割れている。


 こんなこともあろうかと、バストーラに替え鞘は大量に作ってもらっている。控え室にも、五本あった。古い鞘は捨て、丁寧に油を浸したドラゴン革で拭った刀を新しい鞘へ納める。両手で水平に掲げ、目の高さで一礼し、同じくバストーラ工房製の不格好な刀懸けへ懸けた。


 それから二人でしばし作戦会議を行い、またクロタルが例のマジックカードを取り出して、


 「そろそろ時間です」

 「あ、あの、クロタルさん」

 「なんですか」

 「それって……あたしももらえるんですか」

 「魔力を持っていれば」

 「魔力を」


 「しかし、ドラムは自然魔力クラントをハイセナキスへ強制的に回しているので、使える人は見たことがありません」


 そういうこと。桜葉はあからさまに幻滅した。

 「必要なのですか?」

 「いや……その、時間がわからなくて……」

 「時間を知りたいのですか!?」


 久々にクロタルの驚愕しきった顔を見た。桜葉は泣きそうになり、

 「すみません、もういいです」

 「では、行きましょう」

 「はあい」

 この世界へ慣れたつもりでいたが、やっぱり慣れない。

 


 また専用通路から関係者席へ出ると、周囲の客からヤジが飛んだ。

 「惜しかったな!」

 「ざまあみさらせ、この木偶デク!」

 「お前のおかげで大儲けだ!!」

 「おれは大損だ、新参が!」

 「もっと気合入れろボケ!」


 どこの世界も似たようなものだ。桜葉は苦笑した。

 「なに笑ってやがるんだ、まじめにやれ、まじめに!」


 桜葉は、芸能人や政治家、役所の人間、店員などが訳の分からないことでいちいち訳の分からないクレームをつけられる理由が分かった気がした。訳の分からない人間が云ってるにすぎないのだ。


 さて、アークタ対ユズミ戦へ集中しなくては。


 アークタはユズミの遠隔攻撃をどう捌くのか。それが、明日のユズミ戦での非常に参考になるはずだった。クロタルからもそう云われていた。


 (魔法じゃねえんだから、ランツーマみたいな自在な攻撃はないはず。なんたって弓なんだからな)


 しかも、長弓だ。威力はデカイが、連射は難しいはず。

 (それより、ユズミは剣のほうが恐いぞ……)

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