第3章 2-4 誘い合い、そして

 桜葉は容赦なく追い打ち! 鬼にもなってアークタを蹴りつけた。カスダメながらダメージ追加!


 瞬間、アークタが桜葉の足へ掴みかかったが、それすら前足で地面を蹴って後ろへ下がって華麗に避けた。


 残ゲージが三割を切ると、少しづつ動きに制限がかかるうえ、力も弱くなる。アークタの動きが格段に鈍い。好機!!


 桜葉はまだ片膝をついているアークタめがけ、二足一刀にそくいっとうの間合いから右逆袈裟(桜葉から見て左側からの逆袈裟)に切り上げた。アークタが右のショートソードで懸命に防御したが、剣ごとはね上げ、イェフカ刀がアークタのこめかみあたりにヒット! バアッ! バガッ、バ、バ、バーン!! 効果音とエフェクト? めいた爆発のような光がほとばしり、アークタはドッと後ろへ倒れ伏した。


 チラッ、と桜葉、ゲージを確認。間違いなくやったかと思ったが……あと少し……ほんの少し残っている。なんでだ!? あのショートソードによる防御か!? だが、自分はまだ半分ある。しかし超クリティカルを食らうと、一気に自分も三割を切る。動きが鈍った同士では、どうなるか分からない! むしろアークタに一日の長が!! ここで間髪入れずにトドメか、それとも窮鼠猫を噛むのを警戒し様子を観るか……どうする……どうする、どうするどうする!? どうする桜葉あ!! 自問自答の後、


 「ままよ!!」


 桜葉はトドメに入った。が、油断はしない。大丈夫。集中は続いている。わざとゆっくり起き上がったアークタが、自分をぎりぎりまで引きつけているのが如実に分かった。ここはこっちも誘いだ!


 アークタが壊れて抜けないはずの左のショートソードへ手をかけていることを、桜葉は気づいていた。そこを、気づいていないフリをして豪快に刀を振りかぶって大上段、真っ向から切りかかる。


 「……待ってたぜ!」


 アークタの眼がギラリ、と光った。バチッ! 壊れている金具を引きちぎり、左手でショートソードを桜葉の居合もかくやの眼にも止まらぬ速さで引き抜くや、クルッと順手へ持ち替え、起き上がる際に右手でつかんでいた砂を桜葉めがけて投げつける。目つぶし!!


 同時に、ひるんだ桜葉めがけて、一気に左手で剣を突き刺した!!

 「……!?」


 が、桜葉はそれを読み……パッ、と斜め前に歩を出しつつ身体を真半身まはんみに捻って目つぶしも突きも綺麗にかわした。


 「…………!」


 一瞬、かわされたアークタが桜葉を向いたので眼が合った。かなり至近距離だった。このまま大上段のままの刀を振り降ろしても、アークタにはちょうど刀を握っている腕がぶつかるほどの距離だ。


 しかし桜葉の習った流派には「引き斬り」という技が多数ある。至近距離でが詰まっている場合、前足で地面を蹴って後ろに下がり、同時に下がりながら刀を振り降ろして自分で斬る間合いを造る。


 すなわち、! アークタは、桜葉の「術中にはまった」と云えよう。さっき、突きをかわされて背部にクリティカルを食らったばかりなのに、また同じような突きを「誘われた」のだ!


 「ぬああ!」


 ガッ! 稽古の通りにはゆかない。本来は切っ先の最も威力のある部分が当たるはずが、刀の真ん中ほどが当たって、斬るというより鈍器で殴ったような感触があった。それでも、ダメージはダメージだ。


 ……バアン!!

 爆発と共に、今度こそ、アークタがばったりとうつ伏せに倒れた。


 再び派手なファンファーレのような、オルガンの総奏のような分厚い音がして、桜葉の……イェフカの勝利が告げられる。

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