第2章 2-1 決意
とたん、ドラゴンが大きな翼を広げながら立ち上がり、後ろ脚と尾を使って一気にジャンプし、グウンと浮き上がったと思いきや、バッサバッサと空中へ舞い上がった。
「おおおおおわあああああ!!」
たまらず首の羽根へしがみつく。そのまま右脚に力が入ると、ドラゴンは空中で大きく右旋回した。
「すごい!」
クロタルが声を上げた。
「やっぱり、身体で覚えていたんですよ!」
台上から職員も感嘆の声を上げた。
「うおおおおおお!!」
木々の梢をかすめて、ガズンドラゴンは旋回からの水平飛行より、厩舎の屋根を飛び越えてさらに大きく上昇した。
「…………!!」
そこで初めて、桜葉はこの街の全景を見た。さらには、周囲の光景も。
「……こいつあ……」
アルプスめいた高い山脈に囲まれ、古代に氷河が削った山間の巨大な平地に、人口は二、三万人であろう大きさの街が美しく光っている。その街には不釣り合いなほど大きな楕円形の競技場が、特に目についた。その競技場の上では、今日も二頭のガズンドラゴンが激しく舞っているのが見えた。きっとアークタたちが稽古をしているのだろう。
「……負けて……られない……」
桜葉の決意へ合わせるように、ドラゴンがゴフゥン! と鳴いた。
2
「ところで、このドラゴンに名前はあるんですか?」
思ったよりすんなりとドラゴンを乗りこなした桜葉を、クロタルは心底安心した表情で迎えた。それへ気づかず、桜葉は台へ戻って職員へきいた。
「ガズンドラゴンです」
固有名詞が無いらしい。
「いやあ、良かったです。とてもお上手でしたよ」
「はあ……」
もしかして才能があるのかも……桜葉は、いやな気分ではなかった。
観ると、クロタルの機嫌もよさそうだ。不気味なくらいニコニコしている。
「オスですか? メスですか?」
「こいつはメスです」
なるほど。ガズにでもしようかと思ったが、
(じゃあ、ガズ子だ。ガズ子にしよう)
桜葉、こっそりそう呼ぶことにした。
「では、今日より三日ほど基本飛行の訓練を行い、それから武器を持ってみましょう」
「分かりました」
それから三日間、桜葉はガズ子へ乗り、歩くところからはじめ、駆け足、さらには二足歩行をマスターし、飛行訓練では上昇、下降、右旋回、左旋回と基本動作を難なくこなし、複雑な戦闘飛行も荷重力にさえ慣れてしまえば遊園地のジェットコースターみたいなものだった。
「思ったより簡単だぞ」
なにせ、ガズ子が当初の心配など完全に吹き飛んでしまったほど素直に云うことを聴く。桜葉の微妙な脚の力加減で、自在に動くと行って良い。
「まるで仮想体験ゲームだ」
コントローラーで動かしているみたいなものだった。
「なんとかなるかもしれんですよ、これは」
桜葉は自信を深めていった。
四日目、クロタルが何種類かの騎乗槍を用意した。スタンダードなものを選んで持ってきたようだ。長さは同じほどで、長い円錐形のものが一種類、残りは太さの微妙に違う普通の槍だ。ただし、片手で持てる長さと重さである。
「どれから試しますか?」
(どれって云われてもな……)
西洋の騎士が持つような、この円錐形のやつはだめだ。論外。使い方を知らない。
とはいえ、特段普通の槍も使えるというわけではない。
(古流武術大会で
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