第1章 2-8 スヴャトヴィト博士との対話

 「あの……つかぬことを聞いてしまいますが、あれはいったい、どういう原理で……?」


 「原理?」

 これまた見たこともないほど目を丸くし、クロタルが桜葉を凝視する。


 「原理は……さすがに」

 「原理に興味があるのかね?」


 初老男性の声がし、二人が見上げると、クロタルは驚いて立ち上がり人物を迎えた。


 「は、博士!」

 桜葉は相変わらず変な髪型だとしか思わなかったので、そのまま座っているとクロタルが、


 「スヴャトヴィト博士ですよ!」

 と、にらみつける。桜葉は知ってるよ! とだけ思って、そのままだった。


 「まあまあ、気にしないで」

 博士は、クロタルの横へ座った。クロタルを中心に、三人並んだ。

 「君も座り給え」

 「あ、はい……」

 緊張で、クロタルは練習試合どころではなくなった。


 「君に謝ろうと思っていた。すまなかったね。私の勝手な要望で、公式な候補者を無視してしまって」


 「い、いいえ、そのような……」


 クロタルはしかし、複雑な表情でうつむいてしまった。桜葉は驚きつつ、そんなクロタルと博士を交互に見る。


 「我がスヴャトヴィト式零零参型は、基礎概念から異なるまったく新しいドラムだ。これまでのものとは一線を画する。ただ出力や反応速度が大幅に向上されているだけではない。その魔力炉は、


 「なんですって」

 クロタルが顔を上げた。そして、嫉妬と怒りと悔しさに満ちた顔で桜葉を見る。

 「イェフカは、私よりこんな田舎娘を選んだということですか……!」

 「技能や、知識、情熱ではない。相性なのだ。こればかりは、どうしようもない」


 「クゥ……」

 息を詰まらせ、クロタルは涙ぐんで下を向いた。

 そのため、桜葉と博士の目が合う。


 「どのような副作用があるか不明だったが、まさか記憶や認知にここまで障害が出るとは……。完全に想定外だった。徐々に思い出すかもしれないし、もしかしたら一生、このままかもしれない」


 「……はあ」

 「少しずつ、慣れるしかない」

 「はあ」

 「原理だったね」

 「あ、はい」


 博士が前を見る。見ていなかったからどうなったかのかは分からないが、アークタとランツーマがドラゴンを降りて白兵戦に移行していた。横断幕を見ると、アークタが八割がた、ランツーマが六割がた白い部分が減っているというか、赤い部分が増えていた。アークタの素早い二剣流に蹴り技も合わせた格闘戦に、ランツーマが防戦一方で苦戦している。下段回し蹴りの足払いからの肩口への刺突で派手な音が鳴り、赤い光も光ってランツーマの赤ゲージが一気に増えてアークタと同じほどになった。


 「魔力式や回路図の説明をしても、訳が分からないだろう。基本原理だけ説明するよ」

 「はい」


 「ドラムは内臓の魔力炉で吸収、変換、調整した自然魔力クラントで駆動し、かつハイセナキスでは攻撃、防御、判定用に振り分ける。機体を破壊することなく勝負をつけるために、与えた衝撃損害を統一基準のもとに測定し、あの旗へ映す。ゼロになったら負けだ。防御魔法が働いているので、機体に損傷はない。ただし防御力を超えた超威力攻撃は、その限りではない。世界大会では、機体が破壊された例もあるよ」


 「機体が破壊」

 「破壊されるとどうなるかって?」

 質問を先取りされ、桜葉は驚いた。

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