1-⑪ 僕が殺します

 外は砂嵐、夜は更けて辺りはすっかり暗くなっていた。


 そんな中、不可視ピラミッド“リュウセイ二号”の中でツミキ、サンタ、プールの三人はランタンの灯りで視界を確保していた。


 ツミキはピラミッドの端の方で顔を伏せ体育座りしている。プールとサンタは中央のアンドロマリウスの右腕の側でタコ焼き器とガス台を出していた。


「じゃーん! 今日はこれでタコ焼きだ! タコは無いけどね」


「ほう。これが噂に聞いた“タコ焼き”とやらを作る機械か。ピラミッド内部に食料があって助かったのう。ワシらの荷物はほとんど軽トラのうえだからな」


「そうだ! 忘れてた、軽トラ取りに行かないと――」


「もういらんじゃろ。このピラミッドがあるから」


「ふざけんな! アレは私が丹精込めて改造した通常の速度の五倍は出る軽トラなのよ! 絶対に取りに行くわッ!!」


「わかったわかった。だが今回の件が終わるまで待て」


 プールとサンタはピタッと会話を止め、視線を横にズラす。


 プールは深いため息をついて端の方で膝を抱いているツミキに近づく。


「いい加減立ち直れっての! うざったい! 恩人が裏切り者だったからってそんな気にすること? そいつをぶっ殺せば万事OKじゃない」


「……あなたにはわかりませんよ。倫理崩壊星人」


「よしわかった。――私がアンタをぶっ殺すッ!」


 ツミキの髪を引っ張り喚くプールと必死に抵抗するツミキ。


 サンタは「やれやれ……」と二人の間に割って入る。


「まぁ落ち着け。とりあえず、これからどうするか方針を決めよう」


「もちろん“ハングゥコルン”も“義竜軍”もぶっ殺す!」


「うむ。そこはワシも同じ意見じゃ。奴らの包囲網はいずれにしても突破しなくてはならない。包囲網を再生できないほどにズタズタにするにはこの地帯に派遣された義竜軍エース“アーノルド・ミラージ”とハングゥコルンのリーダー“バジル・シーザー”を倒すのが手っ取り早い。ワシらは当然奴らを叩く。――ツミキ、おぬしはどうする?」


 ツミキは消え入りそうな声で「僕は……」と切り出す。


「僕は、ピーターさんと話をしたいです。それで見極めます。もしサンタさんが言ったことが本当だとしても何か理由があるかもしれない」


「はぁ? そんなもんあるわけ――」


「わかった、ワシらもなるべくツミキとシーザーが対峙するよう気を配ろう。しかしツミキ、一つだけ聞いておきたい」


「なんですか?」


 サンタは口元を歪ませながら問う。


「もし、シーザーが何の理由もなく悪事を働く者だったら、どうする?」


 ツミキは瞳から光を落とし、冷淡な声で答える。




「殺します。僕の手で、必ず」




 プールとサンタはツミキの冷え切った目を見て顔を合わせ、笑みを浮かべる。


「いいねぇツミキ・クライム。そうそう、そこは譲っちゃダメな部分だ」


「好きにせい。だがアンドロマリウスは置いていけ、今のぬしでは手に余る。しかしアズゥは修理してやろう――プールが」


「アンタも手伝え!」


「ほれツミキ。これで奴の携帯端末にメッセージを送るといい」


 サンタは自身の長方形の通信端末をツミキに投げる。


 ツミキはそれを受け取り、ピーターの使っていた通信端末にメッセージを送る。



――明日の午前五時。メレス山脈の遊び場で待ってます。ツミキ




 * * *




 午前四時三十分。


 ツミキがアズゥを持ってメレス山脈に出張った後、プールとサンタは地面に横たわるアンドロマリウスの右腕を眺めていた。


「ようやく一つ目か」


「あと五つ――先は長いわね」


「しかもこれからは義竜軍の手から奪わなくてはならん、難易度は当然上がる。さらに敵もアンドロマリウスのパーツで応戦してくるじゃろう……アンドロマリウスのパーツを持つ者同士の戦いも近い内に見れるかもしれん」


 プールはサンタの言葉通りの状況を頭に浮かべて、嬉しそうに笑う。


「それは楽しそうね」


「おぬしがこの右腕を使うか?」


「まさか。私ね、強すぎる兵器って嫌いなの。癖のある武器を使いこなしてこそのパイロットだと思わない?」


「わからぬな」


「それに、この右腕には私より相応しい奴がいるでしょう?」


 プールは呟くとピラミッドの出入り口へ足を向ける。そして足を進めながらサンタに語り掛ける。


「アイツがアンタが望んでいた“銀”?」


「うむ」


「アイツが“銀”なら私は?」


「“香車”じゃな。敵陣に入るまでは無鉄砲だが敵陣に入れば“金”となり器用な動きをする」


「えー? 個人的には“飛車”が良かったけど、まぁいいか。そんじゃ、“香車”らしく突っ込むとするよ」


 プールはピラミッドから出て砂漠の大地に足を踏み入れる。


「驚いたな。ワシより奴の方がツミキに入れ込んでおるわ」


 サンタはプールの背中を見送って「さて」と息をつき、地面にこの砂漠地帯の地図を広げる。


(ここまでは予想通り、いや、予想以上に上手く運んでいる。問題は湿地地帯に入るために砦を越えなくてはならぬこと。砦を抜け、新たなパーツを手に入れに行く。――今、最も“アンドロマリウス”のパーツがある可能性が高いのは間違いなく……)



――王都“オーラン”。



「いかん。焦るな焦るな……まずは“銀”を確保することに集中しよう」

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