第2話 教育委員会教育相談第二課出向中の副主査の場合 ~異世界転生編

その1 何か既視感ある仕事

「さて、まず自己紹介といこうか。

 僕はトール・エダグライン。ここ教育委員会教育相談第二課で指定相談員を務めている。ここで君が話した事、及び僕が話した事は一切記録されない。ここはカメラも無いしマイクも入っていない。だから安心して何でも言ってくれたまえ。

 さて、この条件で君にいくつか質問をするよ。いいかい」


 今日の対象は十三歳の男の子だ。

 成績は標準やや下、性格は内向的とある。

 彼は俺の問いかけに小さく頷いた。

 それでは質問開始だ。


「さて、最初に聞くのは君が能力に目覚めたと思ったきっかけだ。事故にあって意識を失った時、夢を見たと聞いたんだけれどどんな夢だったのかな」


「僕が前に生きていたのはここより遙かに進んだ世界だった。空を飛ぶ自動車が自動運転でそこここを行き交うような世界だ。


 そんな世界で僕は制御が外れた飛行車の事故にあった。とっさに女の子を突き飛ばして助けたけれど僕自身は事故でそのまま死んでしまったんだ。


 多分ここで似たような事故に会ったから思い出したんだと思う」


 うんうんと頷きつつ俺は彼についての資料を思い出す。

 夢の話にはまだ続きがあった筈だ。


「それで夢の内容は事故で死んだところで終わりかい?」


 彼は首を横に振る。


「いえ、まだある。死んだ後、僕が気づいたら白い広間だった。そこには白い服を着た綺麗な女性がいた。僕は一目見てわかった。これはこの世界を作った女神だって」


 女神か。

 どうもこんな対象の話には女神の登場率が異様に高い。

 男の神じゃまずいのだろうか。

 神話とか宗教書とかそれらの挿絵では神は男性形の方が多いのだけれども。

 大学の卒論で研究した奴がいるから知っている。


「それで女神はどうしたんだ?」


「僕が助けた少女は将来世界にとって重要な人物になる予定だったらしい。だから少女を助けてくれたお礼に特別な能力を持たせて転生させてあげようと言ってくれた。

 それで僕は思い出したんだ。特別な能力を持っていた事を」


 何か俺は昔の仕事を思い出して胃痛を感じた。

 これじゃ入国管理局で仕事をしていた時と同じじゃないか。


 しかし職務放棄するわけにも行かない。

 魔法心理職公務員の給与水準は悪くないのだ。

 例え仕事内容がこんなキ●●●相手で生産性の全く無いものばかりであっても。


「それでその能力はどんな感じなんだ?」


「一つは『闇のゲーム』だ。発動条件は僕が『闇のゲーム』と宣告し、相手とゲームをする事。このゲームで相手が負けた場合、負け方に応じたペナルティを相手に下す事が出来る」


 おう、それはなかなか恐ろしい。

 勿論実際にそれが起こるのならばだ。


「もう一つは『罪の宣告』だ。これは僕が罪を認めた者に対し、その罪に応じた刑を宣告する事で発動する。刑は罪の重さによって異なり、最悪の場合は死亡する」


 中二病という言葉があってな。

 そう説明したくなる自分を必死に押し殺す。

 こんな生産性の無い仕事でも仕事ではあるんだ。

 真面目にやらないと。


「それで実際にその能力が発動した事はあるのかい」


「危険だしどうせなら世間の役に立てたいからさ。つまらない授業など受けるより能力を活かして世の中を浄化した方が国のためだろう。だからそう先生や校長、教育委員会や役所に訴えたらここに回された」


 つまり厄介払いの部署のわけだな、ここは。

 魔法心理職公務員の仕事はこんなのばっかりだろうか。

 相手が目の前にいるのでため息をつく事すら出来ない。

 もう勘弁して欲しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る