その2 一応審査はするけれど

「なら知識でもいい。科学でも魔術でも数学でも技術でも何でもいい。この世界にとって有用だと認められるよう、知識を披露してくれ」


 対象はにやりと嗤う。

 自信があるらしい。


 その自信が何処から来たのか俺は毎回不思議に思う。

 今まで何十人、いや何十対象も面談したが有用な知識を持っていたのは一人だけ。

 そのくせ誰もが自信ありげなのだ。


「俺達の世界は進んでいるからな。空を飛べる飛行機という乗り物がある。また馬よりも遙かに早く走れる自動車という乗り物もある。他にも……」


 はじまった。

 いわゆる『あるある攻撃』だ。

 それが一段落した後で、俺は彼に尋ねてみる。


「それでそれを知っていて何の役に立つのかな」


「それを作って世界に革命を起こす!」


 おいおいおい。

 色々突っ込みたいけれどまずは初歩的なところから。


「つまり君には飛行機なり自動車なりを作る能力があるというのだね」


「魔法があれば出来る。ただ今はまだ魔法の出し方がわからないが……」


 つまり作れないという事だろう。

 しかし俺は親切だ。

 更に今後の矯正作業の都合もある。

 対象には自分の知識がどれ位役に立つのか、ここで良く知って貰おう。


「なら私の魔法の一部を開放しよう。材料、設計等作る対象の事を知っていればその物を作る事が出来る」


 俺はこの時用に用意していた木材を自分の目の前に出す。


「例えばこの木材を使って、分子構造を変化させたり加工したり形を整えたりすればだ。こんな事が出来る」


 何段階かの魔法を使って鉛筆と紙が出来上がった。

 鉛筆は鉛を使わなくても書き味滑らかな俺の苦心作だ。


「さあ、こんな感じでやってみるといい。この紙と鉛筆は考えをまとめる為に差し上げよう」


 男は紙と鉛筆を透明板の隙間から対象に押しやる。


「さあ、どんな物でも構わない。君の知識の有用さを照明してくれ」


 対象はちょっと考えて、そして文句を言う。


「材料が無いと作れないだろう」


「第一次材料は魔法で用意出来る。鉄鉱石とか木材とか石炭とかな。慣れない魔法だが多少は無茶をしても大丈夫だ。この部屋には安全魔法がかかっているから。

 だから心配せず好きなように魔法を使って有用性を照明してくれ」


 男は何やら石をいっぱい喚び出した。

 うん、鉄鉱石だ。

 アルミナでも喚び出すかと思ったのだがその辺頭は固い模様。


 そして次は鉄鉱石を睨んでうんうん唸っている。

 鉄鉱石から鉄を抽出しようと試みている模様。

 おそらく鉄鉱石は酸化鉄だという事がわかっていないのだろう。

 分子組替なり原子集合なり魔法を使えば単なる純鉄を取り出すのは簡単なのだが。


「分子なり加工法なりを思い浮かべればちゃんと形になるはずだぞ」


「煩い、俺はこの魔法に不慣れなんだ!」


 俺の魔法だから不慣れなのは当たり前だ。

 しかし問題はおそらくそこではない。

 鉄鉱石から鉄を取り出すのに必要な知識が無い点だ。


 しかし俺は新設だ。

 ここは少し助けてやろう。


「なら鉄鉱石から鉄のインゴットを取り出すところまではやってやろう。その後の成分調整や整形作業は自分でやってくれ」


 俺の場合は鉄鉱石と木材を使う。

 高熱をかけ、木材から取り出した炭素を反応させて酸素を奪い、鉄を取り出す。


 勿論高熱は目的物だけにかかって赤外線の放射等は無い。

 発生した二酸化炭素等は風魔法で屋外へ排気する。


 物理屋の魔法使いだと鉄鉱石から直接分子操作で鉄原子だけを取り出し金属結合させられるのだが、まあ結果は同じだからいいだろう。


 約二千ガロ1トンの純鉄を四角い塊にして抽出、完了だ。


「さあ、これでどうだ?」


「おう、ここからなら簡単だ」


 本当にそうかな。

 俺は口には出さずにそう思った。

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