異世界公務員のぼやき節
於田縫紀
第1話 入国管理局特別審査第一部門主任の場合 ~異世界召喚編
その1 毎度お馴染みの対面審査
「お前みたいな下っ端じゃ話が通じない! この世界を管理する女神を出せ!」
第一面会室、透明板を通した向こう側で対象がわめく。
俺は思わずため息をついた。
見たところ典型的な他世界からの不法入国者だ。
年齢は中年に入りかかった位。
体型はだらしないデブ。
ひげもじゃ髪伸ばしっぱなし。
何処から見ても完全に駄目な奴だとわかる。
「まず言っておく。神だの女神だのなんて私もお目にかかった事は無い。公式で実際に神と会ったとされるのは初代国王と初代大神官位だな。そんな対象に会わせろと言っても連絡手段が不明だ。もしお前が神に会わせろというなら自分で呼ぶんだな」
「話が違うぞ!俺はこの国を救いに来た異世界からの英雄なんだ。下っ端役人のお前がこんなところで俺を押し込めているなんて無礼だ!」
狂っていると思ってはいけない。
これは割と典型的な対象の態度なのだ。
もう俺も何度となく面談したタイプ。
いったいこいつらの世界の常識はどうなっているのだろう。
ひょっとしたらこんなのでも生きていける位の理想郷なのかもしれない。
でもこんなのばかりなら俺はここワーサキ国の方がましだな。
この業務についてはさっさと異動したいと切に願っているけれど。
「まず君の立場を説明しよう。君はこのワーサキ国に他世界から不法に入国した不法入国者だ。聞いても無駄だと思うが一応形式だけでも聞いておこう。何の目的でこの国に不法入国した」
「この世界を救うためだ」
対象はきっぱりそう答える。
やっぱりと思いつつ、俺は定例の台詞を口にする。
「それで世界を救うために何か技能とか才能、特別な知識はあるのかな」
「当然だ。俺はここより遙かに進んだ国から来た。役に立つ知識も色々持っているし、それに異世界から来たんだ。特別技能も何か授かっている筈だ」
あーあ、パターン通りだと思いつつ俺は更に定例の会話を続ける。
「なら君がどれほど有用なのか試してみよう。授かったという特別技能を私がわかるように発揮してくれたまえ。または凄いという知識を私に有用性がわかるように披露してくれてもいい」
俺の言葉を聞いて対象はちょっと困ったような顔をした。
「それなんだが、異世界からここに来てすぐここに連れてこられたので授けられた異能が何かまだわからない。だいたいこんな処に連れてくるとは何だ。普通異世界からの勇者は国王直々に拝謁するのが礼儀だろう」
「まず言っておくがここワーサキ国は共和制で議会民主主義を取っている。国王はいない」
何でここが王国だと思っているのだろう。
女神と同じくらい訳がわからない。
しかし他世界から来た不法入国者はだいたい女神とか国王に会わせろと言ってくる。
こいつらの世界はそういう世界なのだろうか。
俺にはとても想像がつかない。
「更に言うと私は他言語魔法と判定魔法等いくつかの魔法を使う事が出来る。今話している言葉は君がわかるように私が魔法を使って翻訳している訳だ」
「異世界でも言葉が通じるのはデフォルトでは無いのか」
何も考えていないな、この馬鹿。
「君を収容する時の警察官の言葉は君に通じなかっただろう」
「下賤の者に言葉が通じないのは当然だろう」
何だその偉そうな考えは。
「我が国は識字率もほぼ百パーセント。この国の言葉を話しても君が理解できないだけだ。今は私が魔法でそっちの言葉を話しているに過ぎない」
こいつの常識にケチをひとつつけたところで本題に戻る。
「さて、私は言語魔法の他に判定魔法も持っている。でも一級判定魔法士の資格を持つ私でも君が持つと自称している特別技能を確認する事が出来ない。だから君自身がその技能を披露してくれれば話は早いと思ったのだがな」
「だから国王か女神に……」
「どっちも我が国にはいない。そう言っただろう」
全く理解力に乏しい対象だ。
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