ただただハグをさせて。



今日は休みだった。


今日は何もなかった。


今日は暇だった。


今日は暑かった。


今日は…


今日は本当に、


色のない一日だった。







今日は彼女が一日中ずっと仕事でいなかった。

ああ、色が欲しい。


この贅沢でもなんでもない白い壁が心臓をえぐってくる。

ああ、色が欲しい。


色を足したくて僕は昼間、PPPのライブDVDをずっと見ていた。

声も姿も美しい。

流れる汗はきらめき、リアルタイムで見ていたあのライブ中を思い出す。


まだか。まだか。


まだか。まだか。


一刻も早く君を抱かせてはくれないか。

一刻も早く君と笑いたい。



はは、なんだか飼い主を待つ犬のようだ。

などと考えたがそもそも犬を飼ったことがないので定かではないが…。

僕にしっぽはないが話せる。

喜びは大声で叫ぶ。





ガッチャン!


来た。

帰ってきた!

うちの家のドアの音だ。


「ただいま…」



おかえり!


って言ってあげたいけど…。






「アハハ…えと…疲れちゃって」


見れば…

見ればわかりますよ。

どれだけ一緒にいると思ってるんだ。


疲れて

辛くて

悲しくて

大変で


「…ベッドで、待ってて下さい。お風呂入ってきます、から。」


iessa. 彼女の思い通りに動こうではないか。

僕はあたたかい彼女をゆっくりと撫で、少しだけキスをした。


























































「待ても出来ないんですか…。私だって、待ちたくないのに!」


































































____________________________________








「はぁ…すみません。ごめん、なさい。」


今日の君には色がない。

今日の君には煌めきを感じない。


何があったんですかって聞くのさえ、

今日は可哀そうだ。


「癒して…下さい」


そう彼女は言った。

立ったまま言った。

僕はベッドからゆっくり立ち上がった。



「んまっ…んぅ…んんっぅ…」


唇を重ねる。

深く。深く。舌を絡めて。

甘くとろけるような味と香り。


「うれしいっぃ!あぁっ…あ、んぅうう…!」


熱い粘液が口内を満たす。

ねっとりと舌が絡んで、脳がくらくらしてくる。


「ごめんなさい…こんな。でも、今日は、許して…」


大丈夫。

今日だけなんて言わずに。

明日も、明後日も明々後日も。

いつでも許しますから。

そうやって甘えて下さい。


そういうと彼女は僕に顔を埋めてきた。


「『頑張ったね』って言ってほしいです。『お疲れ様』って言ってほしいです。『大好き』って、『好き』って、頭撫でながら。離れないようにぎゅぅぅってしながら。私を認めてください。私を…見て。」



言われたとおりにする。

腕にもっと力をいれてもっと強く撫でた。

頑張ったねって

お疲れさまって

大好き

好き

あなたはちゃんと頑張ってるから。

大丈夫だから。

人の評価なんて気にしなくていいから。


…アイドルだからって自分に蓋をしたりしなくていいから。



「…やさしいあなたがすき…たまにおこるし、わたしのいうことしっかりきいてくれるときときいてくれないときもあるし、どきどきさせるくせにわたしのことわかってるのかわかってないのかわからないし、へんたいさんだけど…わたしのことしっかりりかいしてくれるし、とってもとってもやさしいし、すきでいてくれるし、だいじにしてくれるし…やさしいだけじゃないけどでもやさしくてどれだけあまえてもゆるしてくれるし…!」


僕はベッドに押し倒された。

いつの間にかベッドの上。


「私、あなたを癒すって。あなたを大事にするって言いました。」


彼女は僕をよりつよく抱きしめた。

僕はただそれを受け入れた。


「でも私、ずっとあなたに癒されてきた身なんです。ずっと。あなたに甘えてもらえるのが私の存在意義で。アイドルのことも普段の生活のことも認めてもらえて。あなたがあなたでよかった。あなたが私のつがいでよかった。私がフレンズでよかった。」


泣かないでよなんて言いたくなかった。

言えなかった。

僕だって助けられてる。

僕も君がいてよかった。


「もっと撫でて下さいぃっ!」


彼女は僕にもっと強く抱きついてきた。

泣いてしまっていて、えっくえっくと僕に響いてくる。

パジャマははだけて、肌がしっかりわかるほどだ。


落ち着きました?


そう聞いた。


「まだ…落ち着けません。」



どうすればいいですか?

いつもの君は好きにしてっていうけど。


「ただただハグをさせて。」


僕には何の取り柄もないけど、

彼女の心が少しでも晴れるなら。


ハグくらい飽きるほどしてあげよう。

キスだっていくらでもさせてあげよう。


「…あなたって結構いいにおいするんですね、抱きしめやすいしおちつくし…」





















ひたすら抱きしめ合うだけ

ってのも悪くないと思いませんか?

温かい体温はすぐそこに。

大好きな香りに包まれて。

私はきっとしあわせものです。

確かに確かめ合いたい。

愛は形がないから。

ないけど。

それは私たちに誰かが形を。

形を。

形がないという形を。

見させてくれているように。

そう感じるのです。





























今日もまた、彼にどっぷり浸れる時間が来た。

そろそろ気付いていてもいいくらいだけど、

彼は本当に根っこからやさしくて。

ちょっと演技しちゃってごめんなさい。

でも、大好きなのはほんとです。

今日もお願いします。

毎日お願いします。

大好きなんです。

離れたくないんです。












だから、ハグさせて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る