良い物は高くつくし厚くつくけど恩もつく
「うわぁぁぁ!おいしそうですね…!」
今日はちょっとだけ奮発して、なんだかおいしそうなお寿司を食べることにした。
仕事仲間におすすめされたいわゆる
「回らないお寿司」
という所である。
厳かな雰囲気に正直ビクビクしている。
僕にしっぽがあったら今頃しきりにふるえてケツの筋肉がムッキムキになっている事だろう。それぐらい体がビクビクしてる。
説明を個室で聞いているのだが、机の下できゅっと手を繋いでくれている彼女は特に気にした様子も無く、目をキラキラと光らせていた。
しばらくして、予約の時にお願いした通り、良いネタが届けられた。
そして彼女の開口一番が冒頭のセリフである
脂が乗った身をゆっくりと滑らせて噛みしめ、頬を支えてぷるぷる震える姿は筆舌に尽くしがたいが伝わって欲しい。
いつも通りのアイドルの服ではなく、落ちついた服装でまとめた彼女の唇は、豊かな甘いとろけるような脂のお陰で妖しくぬらぬらと光っていた。ぬらめくという表現は日本に無いのが惜しまれる所だ、誰か作ってくれまいか。
「…あの~、食べすぎちゃうので、貴方も食べてください?」
顔にもっともっと食べたいね?
なーんて書いてあるけれど、気を使ってくれているのだから、僕も手を伸ばそうかな。
指に吸い付く感覚が何とも言いがたい感情を呼び覚まし、大衆文化であり高級であるこの寿司というナイススナックを噛みしめた。
彼女は、最初、ちょこちょこ自分の肌やお腹などを見つめたりしていたが、満ち足りた顔した彼女がそこに居るので多分どうでも良くなったのだろう。僕も正直どうでも良いかなと思う、ちょっとぽよよんとした彼女の姿を見てみたい気もしなくも無い。
一通りの食事を終えて、金額を見て改めてぎょっとしたけれど、彼女の為なら惜しくも何とも無かった。これだけで満ち足りた気分だ
帰りはタクシーで帰った。
僕ら2人ともお酒が入っているので、頼ってしまう事にした。タクシーのおじさんは終始笑顔のまま、時折僕に道を聞くだけで静かだった。僕らは手を繋いで座った。彼女の手は暖かく、蒸し暑さをしのぐタクシーの冷房とのギャップに癒されていた。
「また行きたいですね…いつか。ふふっ」
かわいい顔で僕を見上げた。
僕は笑い返して「いつかね?」と、ぼかした。
家のある街の外の方へタクシーは走る。
高層ビルの明かりももうそろそろぼんやりしてくる頃だろう。
君の暖かい頬を、黄色い光が濡らした。
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「ごちそうさまです、ちょっと食べすぎちゃったかも…?あの、ほんとに大丈夫ですか?今さらなんだって話ですけど、私だっておサイフ事情は一応ちゃんとしてますから…」
そんなに言うなら。
そう言って僕は金額を見せた。
オレンジ色の綺麗な目が丸くなった。
その後一ヶ月、彼女が何も贅沢を言わなくなった。そういう所がまたたまらない程かわいいのだが。
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