私善四足二人三脚
私善四足二人三脚
わたしよしあしににんさんきゃく
突然だが、読者諸君。
僕の事は知っているであろうか。
……すまない、忘れてくれ。
知っているハズが無い。
知っていたら怖いんだが。
もしかしたら君たちは答えに限りなく近い答えを出すかも知れない。
だがそれはボクであり、僕で無い。
でもそれこそ僕なのだろう。
さて、僕には愛する奥さんがいる。
僕は自他共に認める愛妻家だ。
胸を張って宣言しよう。
「おはようございます、お早いですね」
君こそ早いね、と笑いかける。
「だって、お仕事今日はお休みですよね?だったら一秒でも貴方の傍に居たいから。」
彼女の名前はジェーン。
やったね子供は可憐なハーフだ。
…いや、あっているがあってない。
彼女はジェンツーペンギンのジェーン。
サンドスターの働きにより、ペンギンである彼女が僕と同じように生きている。
いわゆる彼女は “フレンズ”だ。
「朝から考え事ですか?…小難しい顔して」
そんな事じゃ無いよ、ごめんね?
そう言ってもちょっと心配そうな顔をする。
その心配そうな顔が可愛い。
僕は、机に置いていた長方形のデバイスを片手に持ち、青い鳥の歌を聞くことにした。
…いや、今は歌うことにしようか。
『ジェーンちゃんかわいい』
僕の歌を気に入ってくれる人は多いようだ。
幸せを共有できるのは素晴らしい。
僕は目の前でいつの間にやらご飯を食べてにこにこしている彼女を発見した。これはもうご飯を食べてぼんやりなどと言っている暇では無い。急いでペンと紙を出した。
まずは彼女のぷるぷるっとした肌から描こう。輪郭をとって何本も線を重ねて彼女を取っていく。髪の毛も描こう。彼女は普段からあの長い髪をしっかり整えているけれど、寝起きの今は珍しく髪の毛がくしゃくしゃだ。
まぁ長いし、つるつる感は残っている。
キューティクルってやつだろうか?
詳しくは知らないけれど綺麗だ。
でも端が整っていない髪の毛がレアなのは確かで、なんだか見ていて良い感じ。
綺麗な目も描こう。オレンジ色のぱっちりおめめは、吸い込まれそうな輝きを持っている。美しく華やかでとてもこの世の物とは思えない程だ。
はぁ、可愛い限りだ本当に…。
僕の目の前のジェーンさんは、ふと立ち上がって僕の隣のジェーンさんになった。
「あの、一ついいですか?」
彼女は私に問いを投げかけるつもりらしい。
その目は暗くてなんだか心配だ。
「…私、時々不安になるんです。あなたに、迷惑かけて無いかなって…。私、あなたのこと大好きです。でもダイスキが過ぎるかな…なんてたまに思っちゃって。ハグ、キス、添い寝や…その、夜の営みも含めてなんですけど、あなたの大切な時間を、私の為に使わせてしまっている気持ちになるんです。あなたが私に、愛がないとか、うっとうしいとか思っていながら付き合って貰えているなら、とっても申し訳なくて…。」
そんな事無いのに、
彼女の思いは、僕にとって否定出来る物ばかりであった。
「ごめんなさい、疑ってるわけじゃありません。私はあなたが大好きです。あなた以外のオスの子なんて、見てませんから…。」
さらりとそんなセリフを吐かれたら愛せざるを得ないだろう。
『ジェーンちゃんおかす』
脳裏に浮かんだ歌だ。
ふむ、青い鳥よ、歌ってくれ。
愛が無ければ、今も君と一緒に居るなんてことまず無いんだから。
そんなセリフを吐き返した。
君は顔を赤く染めて、改まったように
「…大好きです。」
こう言った。
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何も無い暗い部屋、何も聞こえない部屋
だけど確かに、私の腕は
あぁっ…うそ…
言いたいのに言えない
暗闇に捕らわれた。
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がばっ。
布団を滅茶苦茶に引き剥がし飛び起きた。
目には涙が浮かんでいる。
「ゆ…め?」
驚いたように僕の方を彼女は向く。
休みが終わる深夜、またいつものように足を絡めて強く抱き付き、唇と唇を重ね、首に何度も吸い付き、頭を撫であい、ゆっくりゆっくり夢へ旅立ってすぐである。
「怖い…怖いです…」
得体の知れない悪夢にうなされていたらしい
「あなたはいつまでも私の傍にいてくれますよね?私を裏切るような事なんて…裏切るっていうと可笑しいかも知れないけど…でも、私の事を大事にしてくれますよね?私の大切なつがい…お願い、一緒に居られるだけでもいいんです…私と…いて?」
勿論。
僕が幸せに暮らせるのはあなたのお陰なんだ、それ以外ないさ。その幸せを手放すことなんて絶対しない。君のお陰で会えた人がいる君のお陰で気づいた事がある。君の…
君のお陰で、
君に気付けたのだから。
私善し悪し二人三脚。
良いも悪いもまた人生。
二人三脚でいいじゃない。
腕の中でぐしゃぐしゃに泣いている君だって、僕じゃなきゃ気付けやしないのだから。
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