穢れ無き君へ
「ただいま…」
今日は帰りがうんと遅くなった。
美味くも何ともない酒とかわいいだけのうるさい女、そこまで味の良くないつまみ。うんざりだ、本当に。
一番なのは彼女の作る料理だが、今日ばかりは仕方ない、コンビニで弁当を適当にチョイスして帰って来た。
今や誰も驚かないが、コンビニではキツネやネコの格好をした女の子達が朝夕問わず見られるのだ。まったく、とんでもない時代である。
もっとも、僕の愛しのパートナーはペンギンなんだけれど。
彼女の寝ている顔が一秒でも速く見たくて、僕はうずうずを抑えて手を洗い、気休めの口臭緩和剤を口へ放り込み、バキバキと噛みながらスーツに薬品の霧を吹きかけ、シャワーを浴び弁当を食べた。ここまで20分。
けっこうかかってるじゃ無いか。
そんなことはどうでも良いのだ、とにかく彼女の顔が見たい。見たくてたまらない。
僕の勝手なワガママで彼女を困らせたくは無いが、寝ているのなら話は別だ。
がちゃり…キィィ
寝室の扉をゆっくりとあけた。
狭くて何も無い部屋だけど、僕には丁度良い
少しだけ大きい良いベッドに沈み、白い大きな布を纏っている彼女は、黒い宝石のように燦めく髪を広げ、甘い顔をしている。無意識下で僕を誘っているようにしか思えない程だ。
モゾモゾと音が聞こえたけれど、
僕の耳はすぐにその情報を忘れた。
「ただいま…」
僕は改めてゆっくりと言った。
彼女の顔を見ていたらドキドキしてしまう。
が、いつまでもドキドキなどと乙女な事を言っていては自分に正直になんかなれない。
僕は彼女の白い肌に手を伸ばし、撫でた。
顔のぷるぷるした肌は触っているだけで吸い付いてくるようで思わず興奮してしまう。
すべすべの首筋は、黒髪でいつもは隠れている。誰も踏み入れていない秘境を堪能する事ができるのは、やはり特権だろう。
その黒髪はするすると指の間を抜けていく。
舞う度舞う度彼女の髪の毛からは麻薬のような働きをする香りが漂う。
「キス…するね?」
寝ているけれど、でもやっぱり気持ちがあと一歩出ないときは許可を取ってしまおう。
だって起きてる時の君は、一度も僕のキスを拒んだ事が無い。
嘘ついた。
熱がでた時はしないし、してこない。
「んー…」
息苦しいのだろうか、でもそんなことはどうでも良い。口から口臭対策のバキバキの匂いがした。良いミントの匂いだ。
舌が口の中でれろりれろり絡み合う。
唾液がねとねと音を立てながらぺちょぺちょ情けなく絡む。
唇同士がぴちゅぅ、むちゅぅと音を立てては粘液を引っ張って離れる。
何故かは知らないけれど、彼女の唇は甘い。
わかりやすく甘くは無いのに、何故か甘い。
「ぅあ…はぁ……」
いつの間にか、
少しあった眠気は何処かへ行った。
だけどこのままいちゃいちゃ…?
コレはちょっと紳士的では無い。
穢れ無き君へ。
聞こえていてもいなくてもいい。
「好きだよ?」
僕は改めて寝られるように布団をしっかり整えて、実はそこそこ寝相の悪い彼女の頭を撫でて眠ることにした。
朝聞いた話なのだが…
彼女、どうやら途中のキスくらいから起きていたらしい。まったく、意地悪な子だ。
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