第6話 王太子妃エーサのそれからの日々

・ここからは完全な蛇足であり、幸せな人はほとんど出てきません。

とても後味の悪い話なので、苦手な方は最終話で話はおわったことにしておいてください。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「今日はニヴァル様のお帰りは遅いのかしら…」


王太子妃エーサは夫である王太子ニヴァルの帰りを一人待っている。


自らの魔力の高さを買われ、新設された魔法研究機関『研究塔』へスカウトされたエーサはそこで王太子ニヴァルと出会い恋に落ちた。


あの時は夢でもみているのかと何度も疑ったものだが、ニヴァルの気持ちは一切変わることなく今もエーサに深い愛情を注いでくれる。


だが最近彼女は悩んでいた、体が疲れやすくとてもダルいのだ。

最初は懐妊したのでは?と宮廷医師にも診察を受けたのだがその兆候は見られず、原因も『分からない』という、肝心の王太子は


「きっと慣れない生活に疲れが出てるんだよ、ゆっくり休んでいればいいから」

とエーサをベッドから中々出してくれない事に徐々に不安が募る。


「病気じゃないならなんなのかしら…」


そう考えながらうつらうつらと眠気に襲われ、意識が朦朧として金縛りにあったように体が動かなくなってくる、そうしているうちに静かにドアは開き人が入ってくる気配がした。


ニヴァル様帰ってきたのかしら…朦朧とした意識の中エーサは考える。


「首尾は?」


エーサの横に宮廷医師とならんで立つニヴァル


「万全とはいいがたいかと」


「やはり忌避感を封じる魔法は効きにくい?」


「はい、王太子妃様は大変高い魔力をお持ちですのでそれが原因で阻害されるのもよろしくありません」


「そうか…記憶消去魔法も段々に効かなくなってるみたいだ」


「左様でございますか…かといって王太子妃さまに薬物を投与するわけにはいきません」


「困ったなぁ…また暴れて泣き叫ぶ姿なんてみたくないよ…」


悲しげなニヴァルの声が聞こえる。


『泣き叫ぶ…?一体なんの話かしら…。』


心当たりのないエーサは訝し気に考えを巡らせる、その時まるで夢を見ているかのように映像と声が聞こえてくる。


「いやあああ私を食べないでよおおおおお! 誰か助けてえええええええ」

と叫び声をあげながら扉を開けようと必死でノブを回したりドンドンと叩いたりしている。


『これ…私…?』


「いやだいやだいやだいやだいやだここからだしてここからだしてここからだしてここからだしてここからだして」


と狂ったようにドアを爪で引っ掻いている。


『なに…これ…こんなの私じゃない…』


爪が折れ血がでても扉を引っ掻くのをやめない、そして注意深く自分の様子を見てみると


両足が無かった。


『なにか変な夢をみているんだわ…だって私の足は無くなっていないもの』

ガタガタと震えがとまらなくなったエーサは必至で自分を落ち着かせようと言い聞かせる、大丈夫…大丈夫だと。




その気配を感じたのか傍にいたニヴァルが

「エーサ? 起きたのかい?」

と手を伸ばし彼女に触れた、ビクリと反射的に体を強張らせるエーサ。


「エーサ? どうしたの?私だ、ニヴァルだよ」

優しくエーサに話かけるニヴァル、意識が段々戻ってきたエーサはその顔をみて安心したように


「ニヴァル様…ごめんなさい…なにか怖い夢を見ていたみたいなの…」

とニヴァルに弱弱しく縋り付いた、そんなエーサを強く抱きしめて


「エーサ! 大丈夫、私がついているから怖いことなどなにもないよ」

と優しい手つきで髪をなでる。安心したようにため息をついたエーサは


「ふふ…そうよね…ニヴァル様がそばにいるのに私ったらおかしいわ…両足がなくなる夢なんてどうかしてる」

と囁くように言った。

それを聞いたニヴァルはビクリと体をふるわせ


「エーサ?そんな夢をみたのかい?」

と青い顔で問いかける


「ええ…今日もなんだか体調がすぐれなくて変な夢を見ていたみたい」


「そうか…無理はよくないから今日は早く休もう?」

ニヴァルは宮廷医師に目配せして下がらせる。


「ニヴァル様…今日はずっとそばにいてくれませんか…」

心細いのかエーサはニヴァルから離れようとしない。


「分かったよ、エーサは甘えん坊さんだね」

クスクスと笑いながらニヴァルはその日エーサの傍を離れることはなかった。







……それから月日が過ぎエーサは懐妊した。


大事に経過を見られていたが体調にも問題なく、無事跡継ぎの王子を生み次期国母としての役目を果たしたが、ほとんど魔法が効かなくなり記憶消去ができなくなった彼女の心は耐えられず見かねた国王の命によりニヴァルが生きている限り二度と目覚めぬ眠りの処置がほどこされることになった。





その後王太子ニヴァルは継承権を放棄して彼の息子へと譲り渡し、自らは眠り続ける妃のそばを片時も離れることがなくなった。


「エーサ…?今日もいい天気だよ…君の好きだったあの薄紅色の花も咲き始めたね…」


なにも語らない妃の顔を撫でながらニヴァルはなお語り掛ける。


「また見にいこうねって…約束したよね…君に見せてあげたいのに君はもう私が生きている限り目覚めないんだね…」


ボロボロと涙を流すニヴァル


「ごめんね…君を愛してしまったせいで手放してあげられないどころか、つらいめにばかり合わせてしまった…全部僕のわがままのせいで…僕が代わって上げられたらよかったのにっ…」


嗚咽しながらエーサを抱きしめた。


「継承権を放棄しても予備の血を残すために私は息子の成人まで何もできない…それに君には息子の為に生きていてもらわないといけない…だから待っていて…息子が成人した時は必ず君を開放するから…だからそれまででいいから私の傍にいて…」


それから18年ののちグール王国の王太子の成人と共に華やかに結婚式が行われ、その夫妻の傍には車椅子に座った彼の母親が参列していたという。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


最後までお読みいただきありがとうございます。


最終話で終わらせようかとも考えたんですが気になる方もいらっしゃるかもしれませんので書きました。


 ここから小ネタ


・生まれたエーサちゃんとニヴァル君の子供は、なんとケニーエちゃんが母親代わりに育て上げ立派な王太子に育ちました。


・生まれたばかりの時は公爵家に娘さんが生まれていなかったため3つほど年下の女の子と無事結ばれます。(もしかしたらケニーエちゃんの娘だったりするかも?)

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とある公爵令嬢の婚約の行方 流花@ルカ @Ruka11111111111

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