第5話 最終話
「ケニーエ…その…何から何まですまないな…」
すっかりしょげ返った様子の王をみてケニーエは思わず噴き出す。
「ふっ! も、申し訳ありません陛下、おかしくてつい…」
クスクスと声をもらすケニーエ
「いや、良いのだ。 其方にはいつも笑っていて欲しいのだからな」
優しい眼差しでケニーエを王は見つめた。
「陛下…もし、お許しいただけるのなら、お願いを一つ聞いていただけませんか?」
「私に叶えられることならなんでもしてみせるぞ? 言ってみるがいい…あ、王妃をくれというのはダメだぞ、それ以外なら国宝だろうが玉座だろうがなんでもやろう!」
「陛下! 真面目に聞いてくださいまし…」
ちょっと呆れてケニーエは王を見る。
「いや本気なのだが…」
「どちらにしてもそのような大それた望みではありません! わたくし、世間をもっと知りたいのです」
「世間を?」
「はい、わたくしは伴侶候補としてずっと王城と公爵家の往復しかした事がございませんでしたでしょう? わたくしの体に万が一のことも許されませんでしたので、なにもできなかったんです…」
ションボリと項垂れる。
「そうか…伴侶候補としての生活は、元々好奇心旺盛で活発であった其方にはさぞ窮屈であっただろうな…」
遠い目をする王。
そっ! それは昔の話で…と顔を赤くしてポソポソと言い訳をしていたが、ケニーエは顔を上げはっきりと答える。
「今までのことは、ニヴァル様の為に必要な事だったのをわたくしもちゃんと納得しております!ただ、もうそのお役目は私には果たせませんので今後は違う形でお役に立ちたいのですわ」
「そうか…で?カワイイお姫様は、うちのバカな王子様になにをしてくれるのかな?」
とイタズラっぽい顔をしてケニーエをからかう。
「へっ! 陛下! 」
「ハハハすまんすまん。其方がかわいらしいことを言うからついついからかいたくなるのだ」
「…はぁ。実は昔から『学校』というものに通ってみたかったんですの」
呆れつつも真剣に話すケニーエ。
「これから婚約が解消されたと発表されたら色々と煩わしいこともあるでしょうし、できたらわたくしを他国に留学させてはいただけませんでしょうか?」
「他国へか…そうだな、根も葉も無い噂に振り回されるよりは良かろう…すべて手配しておくから安心しなさい…ただし!留学先で恋人ができたら真っ先に報告するのだぞ!これだけは約束してくれ」
「陛下…恋人なんてそんなに簡単にできるわけありませんわ…」
ケニーエは真っ赤になって俯く。
「イヤイヤなにをいうのか、其方ほどの美人をほうっておくわけがなかろうが! だが相手はきちんと見極めねばいかん!これは其方の父親も同然の私の役目だ」
なにやら気合を入れている王に冷静にツッコむケニーエ
「いえ…陛下は父では…家に帰ればちゃんと父はおりますわ…」
「なにをいう! 子供のころから見守っておった私は其方の父も同然、その権利はあるっ!大体そなたの父は私の親友でもあるが、どうもあやつは弱腰なところがある故に私がキチンと其方に対して責任を持つ必要があるのだ」
「お…お気持ちはありがたく存じますわ、とにかく留学の件よろしくお願いいたします」
陛下ってこんなに過保護だったかしら…と心の中でため息をつきながらケニーエは言った。
「うむ、もう婚約者ではなくなったとしても、王妃は其方に会いたがるであろうから留学するまで頻繁に会いに来てやってくれ」
「はい。わたくしも王妃様にお会いしとうございますゆえ、面会を希望した際にはくれぐれも
「うっ…分かった…善処はする」
バツの悪そうな顔で王は頷いて見せた。
……それからグール王国ではひっそりと国王ハーンの命により王太子ニヴァルとイーツ公爵令嬢ケニーエとの婚約が解消され、新たに平民であったエーサとの結婚が発表された。
王太子と平民の娘との恋物語は庶民に広く受け入れられ王国はお祝いムードに包まれた。
貴族の反応としては様々ではあったが、公爵五家すべてがすぐさま祝福の言葉を述べその下についている派閥も倣ってすべて賛成に回り、反対するような勢力が表立ってみられることはなかった。
その後、王太子妃エーサは慣例どうりに人前にめったに出ることもなくひっそりと王宮で暮らしているという…。
一方婚約を解消した公爵令嬢は、本人の希望どおり隣国へと留学へ行き、日々新しい発見や多数の友人を作り学生生活を満喫しているという。
そんな彼女が隣国の王子の婚約破棄騒動に巻き込まれるのはまた別のお話…。
FIN
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