狂宴―⑥―

午後3:57


 呼吸、体中の動作に加え、体内を巡る時も止まったかのように、ロックは感じた。


 象牙眼の魔女――サロメ――によって貫かれた、褐色の少女――キャニス――。


褐色の少女の胸から血と湯気が噴き出し、サキの振り返った顔に広がる。


天を仰ぐ、キャニスの鮮やかな茶色の眼の輝きが失せ、鍛えられた肉体が、足から水溜りに崩れ落ちる。


 だが、彼女が、うつ伏せに砂利交じりの水に浸かることは無かった。

 

 息絶え絶えで、仰向けに倒れそうなキャニスを、サキは両腕で抱き留める。


 キャニスの首がサキの二の腕に収まると、ロックは、護拳から半自動装填式拳銃――”イニュエンド”を取り出す。


 象牙眼の魔女の頭に、銃弾を一発。


特殊なナノ加工を受けた銃撃に、一回転させられたサロメは、キャニスを突き刺した位置から大きく飛んだ。


有角の象牙眼の像を歪ませながら、右の頭蓋に大きく穴を開けた銀人形――”フル・フロンタル”――に姿を変える。


 見届けると、ロックは、キャニスを抱えるサキへ駆け寄った。


 キャニスの橙のタイツが、真っ赤に染まるどころか、血色そのものと化している。滲んだ血の池から、泡が吹き出ていた。


どす黒くも赤い傷は、酸素を多く含む心臓と肺に、達していることを告げている。


「喋るな! 動くな!」


 キャニスの口の動きを見て、ロックは制する。彼の目の前で、死にゆく戦友はサキに向ける。サキは顔を蒼白させながら、キャニスの口の動きを凝視した。


 キャニスに言われたことと言うより、何が起きたのか反応しかね、サキは瞬きを繰り返す。


「ロック!」


 呼びかけられて、振り返った先に、苔緑色の外套を着たブルース。


 雨粒が滴る、彼の顔の口は静かに怒りで、閉ざされていた。


 緑の視線は俯き加減に、担架に乗せられていた、東洋人――ケンジと呼ばれたもの――に注がれている。


彼の頭には、大きく十字の傷が刻まれていた。ブルースの持つショーテルが、十文字の傷口から紫電の糸を引いている。


が、ノイズか波が掛かったかのように、ロックの目の前で歪む。紫電を立てながら、銀灰色の扁桃頭に変わった。


「社の車を病院に先導させよう」


 救急隊員と怪我人をかき分けて、カイル=ウィリアムスが言った。カイルの後ろに、ナオトと犬耳の傭兵たちも続く。オラクル語学学校の校長、カラスマは、犬耳の傭兵たちの肩越しに、雨に濡れるキャニスに目を奪われていた。


「いや、キャニスは、俺たちが連れていく」


 カイルの提案に、ブルースは首を横に振った。


 ロックはブルースの返答に戸惑わなかった唯一人の人物――”ワールド・シェパード社”の傭兵に囲まれた、エリザベス――を見る。彼女の首肯が、周囲の戸惑いを更に沸かせた。

 

 カイルは、ブルースとエリザベスの真意を計り兼ねたのか、


「……こちらは、行政と連携している。命が助かる確率があるなら――」


 カイルの持ちだした言葉、に、ロックは首肯しかける。


 だが、ブルースの視線に、ロックは遮られた。


「UNTOLD関係の技術、及び当事者の遺体は、すぐ、”ブライトン・ロック社”に引き渡す……スコットランドのダンディーで、ナオトを便宜上の代表として、”ワールド・シェパード社”が、停戦を結ぶときに取り決めた筈だ」


 ブルースは、雨の降る中で、淡々と事務的に話した。


 UNTOLD。便宜上、命熱波アナーシュト・ベハ命導巧ウェイル・ベオに”ウィッカー・マン”等を指し”|Utilization of Nucleus, Theory, Object, 《原子、物理法則、物体、》|Leverage and Dimension《力学と事象干渉を行う技術》”の頭文字から取られている。仕組みが分からず、影響力も計り知れないものを表す代名詞だ。


「その取り決めは……人命救助、住民感情よりも優先することか?」


 カイルの言葉が、敵愾心に近い質問をブルースに嗾ける。


 ロックは、敵愾心が、殺意に変わったのを、短く切り上げた金髪の男から感じた。


「安い人道主義が、人をあらぬ形で滅ぼすこともある……も含めてな」

 

 ブルースは、一つ間違えれば、敵愾心と殺意の境界線を彷徨う傭兵に答える。彼の口調は何処までも平然で、感情もない刃の様な視線を向けた。


 二人の間に、ナオトが割り込む。


 ブルースと視線を交わしたナオトは、カイル達に向け首を横に振った。


 カイル達から、ロック達への怒気は感じられない。だが、率いた銀騎士の対応への不甲斐なさを感じる余り、疑心の視線に豹変。


 凝視しているとロックは、ブルースに肩を掴まれた。


 直視する彼の眼に、震えるロックの顔を映しながら、


「あいつの人間としての尊厳を守る為に……俺たちが出来ることはこれしかない」


 ブルースの言葉を、ロックは理解していた。


命熱波アナーシュト・ベハに魅入られた者は、人間としての死を迎えられない。


命熱波アナーシュト・ベハを顕現化させる”リア・ファイル”は、その遺体を、手切れ金として食らいつくし、新たな宿主を探すだろう。


 キャニスの遺体に――ブルース達の言う――を、施さないと、望まずに、死後も辱められる。


次なる獲物を求める呪いを、外ならぬの体から解き放つことになるのだ。


 彼女を呪詛の代名詞にしない為に、遺体は、口外できない場所に送るしかない。


何処までも、ブルースの理屈は正しかった。同時に、自分たちがを唱えられる立場でないことも。


 悲しみを噛み締め、ロックは重く首肯する。


 彼は、ブルースにキャニスの背中を預けると、


「プレストンを呼ぼう。アイツに対処を任せる」


 犬耳兵士たちを分け、凛として放たれたエリザベスの声が、ロックの耳を打った。


 彼女がA4サイズの情報端末を取り出すと、


「来客を避難させよう。カイル隊員、今いる隊員たちを――!」


 ナオトの声が、途切れる。


 銀の鎧をまとった戦士の視線には、


「サキ!!」


 銀灰色の扁桃人形の四肢に、サキは覆われていた。


流動化し、脚が上半身、腕が下半身に纏わりつき、上体を逆さにして扁桃頭を錘にしている。人間の可動域と言える首と腕と脚を、悉く支配していた。


 一体、また一体が、サキを覆い包む。地面の下から出た一体が、銀の胴体をサキの黒髪を舐めるように、絡みついた。


彼女の顔の横に、蹴球の大きさの銀色の塊が出来る。銀の蹴球が、顔を形成し、


「頭を撃たれても痛くないですが、毎回やられて、気持ちいいとは思えませんね?」


 象牙眼と石榴色の唇、遅れて整った鼻梁が作られ、蹴球はサロメの顔になった。


 銀の流体が、象牙色の鎖になり、サキを締め上げる。


「痛みを忘れたお前の姿の方が気持ち悪いぜ」


 ロックは、涙滴の護拳を構える。余剰次元を展開した力を溜めながら、象牙色の顔を睨みつけた。


 犬耳兵士たちが、号令なくサロメに、黒と白に彩られた電子励起銃を向ける。


「人形遣いもここまで来ると、前衛芸術だよな」


 ブルースは左手でショーテルの刃を下に。右手で上に向けて、吐き捨てた。彼が支えていたキャニスの遺体は、エリザベスが、担架に乗せ終え、4WDで駆け付けたプレストンに手渡している。


 フリースジャケットを着たプレストンは、手早く彼女を4WDに詰めた。彼は、寸暇を入れずに、車を走らせる。


「ナオト。すぐさま、全員を離れさせろ。市民だけでなく、お前の兵士も含めて!」


「ブルース、君はどうする?」


 背後のナオトの怪訝な疑問に、


「ロックと一緒に、芸術鑑賞と洒落込む!」


「サミュエルも連れてくれば良かったよ……」


 ブルース提案に、辟易しながらロックは、サキを取り込んだサロメを狙う。ロックの逆手に構えた翼剣の切っ先が、サキを呑み込んだ白銀色の小山に触れた。


 しかし、その寸前で、小山が滑り出す。ドックのレストランの壁が音を立てて爆発する。空気抵抗を否定した速度と力で小山がぶち抜いたのだ。


 ロックと対面になったまま、サキは引き離されていく。


 ロックは、ブラック・クイーンを構え、右脚に力を溜めた。


 彼は、力いっぱい地面を蹴りだして解放。


 周囲の雨粒が一粒ずつ、映える程、視界が緩慢となる。


駆け抜ける疾風ギェーム・ルー”の超反応速度で、ロックは白銀塊に照準を合わせた。


 速度と質量を掛けたものは、純粋な力となる。人間の体重と、神経系の伝達速度を強化させた移動は、最高の盾にして、最強の矛と化した。


 しかし、サロメも顔を覗かせた銀灰色は、抵抗は、愚か重量や重力も無視するかのように滑走。作用反作用の衝撃で壊された、商品やそれらが置かれている棚も左右にまき散らしていった。


 目の前では、突風が吹いたようにしか見えないだろう。少なくとも、ロックの前でを目にしなければ、の話ではあるが。


 銀灰色の物体が瓦礫を飛ばすので、追っかけやすい。


 ロックはそう考えていたが、


――そう上手く、いかねえよな。


 銀灰色の岩塊が、一つ放たれる。


 岩塊は、同色の人形に変わり、ロックへ青白い爪を突き立てた。


 ロックは腕を交差させる。


右手の護拳”ブラック・クイーン”を前に突き出し、


――磁向防スキーアフ・ヴェイクター、展開。


 ロックの目の前に広がる閃光が、速度と質量の弾丸と化した銀人形の腕と脚を裂いた。


 磁向防スキーアフ・ヴェイクター


命熱波アナーシュト・ベハを使う際に現れる、余剰次元解放のエネルギーを電磁波の障壁に替えたものである。


 従来、それは防御の手段であるが、ロックは前方に出現させ、攻撃に転化。


 小山と化したサロメから、ロックに向けて、”フル・フロンタル”砲弾が三弾続けて、放たれる。


 ロックは、連撃を狙う拳闘士のように、逆時計回りに上体を動かして一弾目を躱した。


左足を軸足にし、上体を時計回りで動かして二弾目を避ける。


上半身を動かした勢いで右拳から左拳へ、”ブラック・クイーン”を持ち替えた。


 ロックは左足に貯めた力で、前に踏み込む。蹴り出した衝撃で、ロックは体を乗せ、三弾目の”フル・フロンタル”に、涙滴の護拳に包まれた左拳を放った。


 ブラック・クイーンの涙滴型の護拳が、三体目の”フル・フロンタル”の右頭部と鎖骨を砕く。弾け飛んだ”フル・フロンタル”の破片、黒光りするロックの得物の鏡面に、二体の銀灰人形が、現れた。


 得物がロックの利き手と逆にあることが、無防備と思ったのだろうか。


 しかし、ロックからしてみれば、無策は”フル・フロンタル”の方だった。


 目に入った瞬間、ロックは左手の護拳を手放す。


弧を描いて、放たれた護拳が宙を舞いながら光を帯びる。電磁場を励起し、護拳から、火薬のないの爆発が背後から迫る”フル・フロンタル”を捉えた。


 護拳が、グラファイトに乗った雷を放ちながら、翼の剣を作る。剣を形成した、磁界に絡めとられた”フル・フロンタル”は、間合いをロックによって強制的に縮められた。


 ロックは電磁界で止まる”フル・フロンタル”の頭部を、紫電を帯びたブラック・クイーンで一突き。熱源と衝撃熱力が、右前脚と腹部右半分を吹っ飛ばす。


 銀灰色の小山を見上げると、後光が掛かっていた。


 瓦礫や食物の残骸に彩られた路地の先に、フェリー乗り場――最後のバンクェットの後ろで。


 雨に濡れ曇天の下、佇む姿は、晴天を浴びる神々しさから、血や叫びを求める禍々しさを滲ませていた。


 純粋さの象徴ともいえる、白い肢体に青い燐光が宿る。その周りを囲む、銀灰人形の”フル・フロンタル”。そこから、青白い光の筋が伸びていた。


――命熱波アナーシュト・ベハを……送ってやがる――!?


 ”ウィッカー・マン”の動力源。それは、人間のを媒介に活動する。”ウィッカー・マン”が得る――は、命熱波アナーシュト・ベハに他ならない。

 

 しかし、”リア・ファイル”に適さないものが余剰次元を活性化させた熱力に触れ、命熱波アナーシュト・ベハを励起させられたらどうなるのか。


命導巧ウェイル・ベオが、余剰次元からの熱量を調整しない結果は、”ウィッカー・マン”の捕食行動が既に、答えを出していた。


「雨雲で暗く気が滅入るので。取り敢えず、光を出して明るくしてみました」


 蠢く銀灰色の山の中腹が盛り上がり、象牙眼と石榴色の紅の唇を持つ笑顔が刻まれた。


「お前の冗句への返しを考える時点で、気が滅入るんだよ」


 その声と共に、ロックの横を”フル・フロンタル”が横切る。緑の斬光で、四肢を散乱させられた銀人形が、サロメに向かう。彼女の石榴色の唇の手前で、青白い光に遮られ、霧散した。


「その苦労をさせている、お前の言葉じゃねえだろ……?」


 並ぶブルースに、ロックが溜息。


「だが、サロメ……『』を好むお前よりは、ブルースの方がマシだぜ」


「悪趣味ですって……?」


 心外と言わんばかりにサロメが、ロックとブルースの前で大きく頭を被る。傷ついたことを表したいのだろうが、サロメの嘲笑は、素振りとの滑稽さを引き立てていた。


 象牙眼の魔女の動作に合わせて、小山が割れ、腹と肩を固定されたサキが表れる。


 彼女の顔は、蒼白。銀の流体によって、サキは視点をロックに固定させられていた。


「サキに何か、見えてはいけないものが見えている。しかも、あなたと同じものが……そういう事実を、どっちが残酷なのでしょうか?」


 ロックは言葉を無くす。体の中で、恐怖と怒りが、言語化される前に一瞬にして駆け回った。”フル・フロンタル”は、記憶を自在に操る擬態能力を持つ”ウィッカー・マン”である。


サキを浚った時間稼ぎ以外に、使うことは目に見えていた。


「冗句の返しがなくなるあなた達には、真実が無い。真実があるからこそ、機智もユーモアも成り立つ。しかし、機智もユーモアのない冗句というのは、侮辱でしかありません。彼女のことを言われて黙るのは、その証左では?」


 サロメの言葉に、サキの目が見開いた。


日本人の少女は、口の開閉を繰り返しながら、ロックとブルースを交互に見る。


 サキの眼に映るロックの顔。彼女が口を結び、瞼の奥に収めた。


 その顔で、ロックは意味を悟る。


 悔悟で口を開く前に、ブルースの目線で遮られた。


「口が冗長で、手数が多いってのは、……あるいは、ってことだぞ。真実のないユーモアと、同じ位最悪だぜ……サロメ?」


 彼の眼差しは、バンクェットに向いている。


ブルースの指摘で、頭が怒りの余り冷静になって、思考した。


 バンクェット像の催眠電波は、”ウィッカー・マン”の熱源にも干渉をする。


それは、ロックにも探知を難しくさせた。三体のバンクェット像の内、二体は熱源を隠すためのものだったのだろう。


現に、ケンジに扮した”ウィッカー・マン”の動力は明らかだった。


 しかし、ロックですら辛うじて見えるものが、サキには。 


 その事実は、サキに精神的な圧迫が掛かる。


 サキがその場に居合わせた――というよりは、彼女の当事者としてのその弱点を突いてきたことに、サロメへの怒りが、溶岩流の様にロックの中で煮立ってきた。


「サロメ。ロックとサキの事情を知っていたなら、何でこんな回りくどいことをするんだ? ”フル・フロンタル”を使って、大がかりな行事や”ベターデイズ”を利用してまで……サキが目当てなら、エリザベスかプレストン……それこそ、”ワールド・シェパード社”で行動すれば済むんだからな」


 ブルースの指摘に、ロックの中の思考で生じた、感情の溶岩流が冷えていく。


ロックを苦しめるなら、今までも出来た。


それをということは、サロメに別の意図があるという意味である。


「私は“”と“”が好きなんですよ……炎と共に踊り狂い、酒を反芻させ、情欲に流され、自らを犠牲にし、自分が一番だと思う鼻っ柱の高い鼻を、宴もたけなわとなる様を神に見せつけ、阿鼻驚嘆させ、『』。その落差が、面白いのですよ?」


 サロメは、“フル・フロンタル”の手足に縛られたサキに近づいた。彼女の象牙の様な白い右手の指先で、彼女の喉から細い顎の輪郭を撫でる。


 銀灰色の肢体で雁字搦めにされた少女は、逃れようと上体を逸らした。だが、彼女の足掻いた力と同じ反動の力で抜けることが出来ない。


 恐怖に染まるサキの顔を、猫を愛でるかの様にサロメが見つめる。


象牙眼から放たれる恍惚の光が、サキの白い肌を猫と戯れる様に凝視していた。


「落ち着け、ロック。サキは生きている。お前は、まだ取り戻せる」


 左肩から掛かるブルースの声。よく見ると、ロックの左肩を掴むブルースの右手も微かに震え、口端を締めていた。


「それは無理ですね」


 ブルースの希望的観測をサロメの言葉が否定した。


ロックの周囲に沸いた青白い空気が、大気を揺らす。


 ”フル・フロンタル”から送られる青白い魂の明滅が、激しくなった。


空間を揺るがしながら、バンクェットも光を帯び始める。


「貴方は常に手が届かない。今もこれからも。そして、未来永劫ね!!」


 サロメは、青白い光に抱擁されて宙に浮かんだ。


 同時に、サキを捉えていた”フル・フロンタル”の山も崩れていく。流体と化した、銀灰色の山とバンクェットの像の間に、青白い光が繋がった。


一際、激しい煌きを放つと、サキの体は、バンクェット像に引き込まれていく。


 女神像はまるで、初めから水で出来ていたかの様に、括れで出来た波紋に少女を取り込んだ。


「燔祭で見せつけてしまった、その醜い姿を否定する為に、破壊しながらも、結局はそれを止められない。燔祭の終局を見届けることしか出来ない……今回のキャニスに続けて、私たちの掌で、私たちの悦楽の為に永遠に足掻き続けなさい、ロック=ハイロウズ!!」


 全てを見下ろすバンクェット像とサロメを囲む光が質量を得て、奔流に変わる。瀑布と化して、ロックとブルースに集中した。


 ブルースは、右脚で地面を蹴った反動でロックから離れる。


 ロックは、護拳で光の奔流を遮った。


川の中から突き出た石にぶつかる水流の様に、紅い外套の少年の前で遮られ、左右に割れた光の流れを作る。


磁向防スキーアフ・ヴェイクターは、命熱波アナーシュト・ベハによる防御手段である。


化学変化による炎、凍結に雷撃に銃弾等の攻撃は防ぐことは出来るが、発生時に生じた“”の生む“”までは防げない。


護拳の壁を呑み込まん衝撃は、ロックの腰から下を容赦なく襲う。


 質量を得た光の飛沫がロックの前で上がった。


 彼は流れに抗おうとしたが、


――力が、抜ける?


 ロックの右脚が、膝から崩れた。


 飛沫の先にある“フル・フロンタル”が、サロメとサキを取り込んだバンクェットからの光を受けて進む。


 右手で突き出した護拳を下げず、ただ伸ばしたままの片腕で”フル・フロンタル”を突き飛ばす。


一体目から突き出された右腕を、ロックは両腕を交差させて受け、右脚で蹴り飛ばした。


ロックの力が抜けていくのか、銀灰色の壁に大きくのけ反らせたに留まる。


 左奥歯を噛み締めながら、左腕を十二時から九時の方向へ大きく振った。


力を込めた左拳槌は、”フル・フロンタル”の左首付け根に触れ、ロックの手首を青い光が覆い始める。


 ロックのブラック・クイーンからも、燃え移る様に青い光が発生した。


――抜け出さねぇと!


 護拳を、腰の束ねた革帯に留める。


 青白く光る右手の手刀で迫る”フル・フロンタル”の間合いに、ロックは右脚から大きく入った。


彼は、青白い死の一触りを左腕で躱し、振り下ろした右拳で銀灰色の右肘を打つ。右肘への殴打で、右半身を切らされた“フル・フロンタル”は、上体を反時計回りにつんのめらせた。


 ロックは、うつ伏せになりかけた銀灰人形の首根っこを右腕で掴む。背後を取った、“フル・フロンタル”にぶつけた。迫りくる“フル・フロンタル”の波に、ロックはその中の一体を盾にしながら、掻き分ける。


 だが、降りかかる光の奔流が、更にロックの目を焼かんほど強くなった。


 ロックの膝の力も無くなり、青い光の奔流で目の前の風景が、瞼の裏に消えかける。

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