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夜ごとに密会は繰り返され、令嬢は会うたび表情豊かになってゆくようだった。
外に広がる世界のさまざまを、僕は彼女に話して聞かせた。森を出た先には大河が流れていて、反対側には僕たちの村が。街道の先にある街については、話せることがあまりなかった。森に棲む様々な生き物について、村に来る行商の荷物について。知りうる限りを事細かに語った。はじめて聞く知識が増えるたび、大きな瞳はことさらに輝きを増した。
きっと世間の物事について、何も教えられずに育ったのだろう。この通り農家のせがれの方が、よっぽど多くを知っているじゃないか。
そんなふうにうぬぼれることだってあるくらい、実際彼女の知識欲は旺盛きわまりなかった。おかげで僕は何回も、帰ろうとするのを思い直すはめになった。
警備をやり過ごすのにもすっかり慣れて、月明かりにあたりが照らされる夜にさえ、僕は平気で窓辺を訪れるようになった。
思いつく限りの話を僕は語ったが、ただひとつウルシュのことだけは話題に出さなかった。彼女がやつに興味を持って、連れてきてほしそうな素振りを見せるのが、どうにも心配だったから。
目覚めはじめた森のどこかで、郭公が鳴くのが聴こえた。耳を傾ける素振りを見逃さず、あれは郭公という呼ぶ鳥の鳴き声なのだと教える。なぜだか神妙な顔をして、少女は小さく頷いた。
郭公が持つ変わった習性のことを、いつものように僕は話してやる。別種の巣の中に産み落とされた卵は、やがて孵って他の雛を突き落とす。托卵というのだと言い添えると、瞳の中で光が揺らめく。どうかしたのかと様子を窺ったけれど、それ以上は何の反応も示さない。
もっと別のことを話さないと、彼女は気に入ってくれないんじゃないか、けれど知っていることのあらかたを、僕はすっかり喋ってしまった気がしていた。本当はきっとそんなことはなかったはずなのに、沈黙が続くだけ気持ちは焦った。
そうしてなぜだか、僕はここに来る方法のことを口走っていた。森をゆく道の目印のこと、塀をめぐる衛卒たちの人数のこと、そしてきわめつけの、壁をくぐる秘密の通路のこと。
前よりは少しは興味深そうに、彼女は僕の話を聞いた。星と月とが配置を変えて、僕に帰りの時間を告げた。
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