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 薫る風とともに春が通り過ぎ、村にはすばらしい初夏が訪れていた。汗ばむほどの陽気に浮かされて、僕らはたびたび東の河に出かけた。

 小川は村にも流れていたが、泳げるだけの深さはなかった。太陽が昇りはじめる頃に村を出ても、薄暗い森を越えて平原を過ぎ、水辺にたどり着く頃にはすっかり昼だった。

 流れは穏やかで魚は多く、河畔には木登りに向いた大木まで生えていて、子供が遊ぶには絶好の場所だった。

 やがて釣りにも飛び込みにも飽き、僕らはぼんやりと体を乾かしていた。

 何か面白いことはないかな、と、隣に寝そべっていたウルシュがつぶやいた。思いつくこともなく答えに窮していたら、いつから〈口なし〉になったんだよ、と荒っぽく追及される。

 こういうところさえなければな、とうんざりしながらも、渋々ながらぽつぽつと案を出す。石切りに虫採り、独楽回しに狩りごっこ。藪苺を摘んだり、花の蜜を吸うのは?

 何を言ってもウルシュは生返事で、自分から言い出しておいてそれはないだろうと思うけれども、提案している僕からしたって、どれも大して魅力的じゃない。思いつく限りの遊びを挙げ終えると、間延びした沈黙がふたたび訪れる。

「そうだ」

 ふいにウルシュが体を起こし、そのままの勢いで僕の方に振り向く。短髪についていた水滴が飛び散って、飛沫を浴びた僕は顔をしかめた。

「子爵の館は知ってるだろ、ほら、いつも森を通る時に見る」

 知ってはいるけどと返事をしながら、木立の向こうの黒い影を思いだす。連なる塀はあくまで高く、そこここに警備兵の気配があって、とにかく近寄りたくない場所なのは確かだった。森を横切るいくつもの小路のうち、館からできるだけ遠いものを僕たちは選んできた。

 行ってみようぜ、度胸試しだ。興奮した面持ちと上ずった声に、なんだかわけもなく焦ってしまう。突然そんなことを言われても困るのだし、そもそも追い返されるのが関の山だろうと思うけど、そうやって考えているうちに、さっきみたく沈黙を揶揄されてはたまらない。

「今から寄るか?」

 気の利いた返答などそもそもないのだと諦めて、意識して挑発を含んだ声色を作る。さぐるような奴の眼を正面から見据え、それでも口の端には笑みを残して。これでなんとか巻き返せただろうか?

 ウルシュが期待通りに躊躇って、今すぐ行かない理由を並べ出すまではよかったが、結局のところ僕は失敗した。じっと話の流れをうかがい、話を逸らす機会を探ろうにも、検討に熱中しだした友人に付け入る隙はなく、僕はしぶしぶ計画につきあう羽目になった。

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