第45話 賢老会の最後
……ここは大神殿内の法王の私的区画の中にある接見の間、そこへ呼び出され法王の到着を待っていた賢老会の代表である、姿かたちがソックリな背の小さな双子の老人がちんまりと座っていた。
「なぁベーネよ」
「どうしたのじゃディクシオン」
「此度の呼び出し、其方はどう思う?」
「どうといわれても……恐らくお怒りでいらっしゃるのではないか?」
「やはりセオドア殿下の件であろうなぁ……だかそこは、こらえていただかねば困る……次期様の教育を怠った責任があるのだからの、おかげで我らが出張って尻ぬぐいする羽目になったことをご理解いただかねばならんな」
そう苦々しい表情で答えた瞬間
『お前たちは随分と自分たちに都合のいい考え方ばかりするのだな』
と、大変不思議な
その声にビクリと体を震わせ辺りを見回す二人……、すると音もなく謁見の間の天井から長くかかっている薄いベールの後ろから法王と護衛の神殿騎士が音もなく歩いてくるのが見えた。
「こっこれは法王聖下! 隠れていらしたとはお人の悪い……」
流石は老獪な元司教達、内心では動揺していても見た目は恭しく法王へ深く拝礼しすぐに立て直す。
『其方たちが先日フィルドの令嬢へ向けた策を使わせてもらったまでだ、なにか不都合でもあるのか?』
歴代の『神の代弁者』である法王の証の魔道具【福音の鐘】によって変えられた、透き通る天上の歌声を聞いているかのように、心地よく思わせる不思議な
「何のことやらこの老人めにはサッパリ分かりませぬ、ですが我ら賢老会の者はいついかなる時も法家の為になることでしか動かぬことだけはお分かりいただきたい」
『私利私欲でなしたことではないから許せと申すのか』
「それがひいては、法家一族の為になりましょう」
その言葉を聞いて苦々しい表情でことばを紡ぐ法王。
『昔……我が祖父である先々代の法王へ、同じことを小賢しく並べ立てた者たちがおった』
「なんですと……小賢しいなど……」
『我が話を遮ってまで主張を並べるのは小賢しいと言わずなんというのか?』
「「……失礼いたしました……」」
そう言いながらも幾分不服そうな感情が言葉尻ににじみ出てしまう二人。
『其方らにとっては私が王位を継ぐより遥か前……赤子のときから見ておるゆえ未だに私を軽んじておったのは承知しておる。 だがこの際だからはっきり言わせてもらおう、今の私は法王だ、立場をわきまえるがよい』
法王から発せられる威圧感に、二人は無言で地に頭をこすりつけるように法王へ跪く。
『話を戻すぞ、祖父の代に勇者召喚の儀が行われたことは其方たちも知っておるだろう?』
「は……勿論でございます」
『その際にな……勇者の力を恐れながらも、我がウォルセアの為だけにその力を使わせようとした愚か者がおったのだ、当時の賢老会のトップだったドミニク元大司教と筆頭とする賢老会の者たちだ』
「あ……あの伝説の聖人ドミニク様がそんな事を」
『そうだ、聖人ドミニクは、世界が危機に瀕している際に、神より賜ったお力を我らの為に振るってくださった勇者マサタカに大変な無礼を働いたのだ。 そのような所業は私利私欲の為でなかったからと許されるわけもなかろう? その罪は非常に重いゆえに、修行場送りとなったのだ。』
そう言いながら射貫くような目で二人を見下ろす法王。
「そ……それでは聖下は我らも修行場送りとされるおつもりですかな?」
顔色を悪くしながらも真っすぐに、ベーネとディクシオンは法王を見上げる。
『そう結論を焦るな……話は最後まで聞くものだと私に教えたのは其方らではないか』
法王はニヤリと少しいじわるそうな顔で微笑むと話を続ける。
『その際に勇者マサタカと先々代の法王の間で、ある約束が交わされていたのだ。その件に関係しているのがお前たちが今回、回収しようとしたエリクシール薬というわけだ。 詳しくは話せんが、あの薬は勇者本人か、勇者が譲渡した者の好きに使っても良いという約定が交わされておる』
「な……なんですと……そのような報告は賢老会では受けてはおりませんでしたぞ!」
『それはそうであろうな……自分たち賢老会がやらかした過ちによって我が国の秘宝ともいえるエリクシールを渡すことになった、などと書き残せる者は、おらなんだという事だ』
「何という事じゃ……つまり我らは約定違反……完全に余計な真似をしてしまったという事なのですね」
『そういうことだな……だからなジイ達よ、私はもう賢老会は必要ないと判断した。ゆえに解散を命じ会員であったものは二度と大神殿へくることも許さぬ』
「なっ! なんですと……それだけはお考え直し下さいませ猊下!」
『一度では済まず二度もこのような事態が起きた、もう三度目の暴走を起こされてウォルセアの威光に傷をつけるわけにはいかん。 これは決定だ、逆らう事は
法王の言葉にガクリと頭を垂れうなだれるベーネとディクシオンへ、法王は優しく語り掛ける。
『だが其方たちの今まで尽くしてくれた心を無碍にはせぬ、これからは引退した者達が暮らす為の小神殿を作らせたから、そこでゆっくり余生をすごすがいい……いままでよく尽くしてくれた事、感謝しておるぞ』
そういいながら法王は膝をつき、泣き崩れる二人の老人の背中をゆっくりと撫でるのであった……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
・法王様は政治的配慮と息子にちょっかいかけられるのが困るだけで、おじいちゃん達を嫌っているわけではないのです(どちらかというと親戚のおじいちゃん的感覚)
今後は老人のガス抜きも兼ねてたまにお忍びで小神殿へ遊びに行って一緒にお茶を飲んだり愚痴を聞いたりしてあげます。(来るなとはいったが行かないとは言ってない)
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