第41話 聖杯適合の儀

 ウォルターの容態も安定し、ケガの治りも順調なので今では率先して移動した部屋へと荷物を運び入れる指揮を執っている。


 あの後エドワードがウォルセア側と部屋を変えさせたのだ。 勿論その時に、二度と侵入できないように対策もとった。

 

 ウォルセア側は『その部屋には隠し通路は存在しない』と主張していたが信用はせず徹底的に調べ上げた。

その結果、確かに隠し通路は存在しなかったが、かわりに面白いものを発見したのでエドワードの機嫌は大変よろしかった。


「では、キャサリン嬢、最後の審査である『聖杯適合の儀』の日にちが決まりましたのでお知らせいたしますね」


ニコニコと笑顔で話すエドワード。


「あの……エドワード様、ご機嫌が大変宜しいようですが、なにかありましたの?」


キャサリンが思い切って聞いてみるとエドワードは


「おや、そう見えますか? それは私もまだまだ修行が足りないという事ですね……いえ少し面白いものを発見いたしまして、ぜひ私の師匠へご報告せねばと考えておりましたもので失礼いたしました」


と、エドワードは少し抑えた感じで微笑む。


「いえ!とんでもありません! ……そういえばエドワード様のお師匠様って確か……」


「ええ、勇者マサタカの伴侶たる大魔導士でいらっしゃいますよ、あのお方は『真名』に加えてご自分の名前をも秘匿することにより魔力を増大させるという変わった魔術を行使しておりますので、現在ご存命の方で知る者は誰もいないでしょうね」


「それで皆さまが大魔導士様、としかお呼びしないのですか……知りませんでした……」


「マサタカ師匠だけが『愛称』とかいって、ご自分で勝手につけた名前を呼んでいらっしゃいましたよ」


ふふ、と思い出し笑いをしてしまうエドワード。


「まぁそれは素敵なお話ですわね」


それにつられてキャサリンも笑顔になる。


「師匠もその愛称を呼ぶことを許しているのは、マサタカ師匠だけだとおっしゃいましてね、子供の頃はわざと呼ぶアドルファスをしょっちゅう追い掛け回しておりましたよ」


「まぁ! アドルファス様は昔からお変わりになられないのですね」


とクスクスと笑うキャサリン。


「あれは一生変わらないでしょうね」


と肩をすくめて見せるエドワードであった。


「それで話を戻しますが『聖杯適合の儀』とはどういうものなのか? というお話なのですが詳しい説明は、儀式の最中にするという事で神殿側から押し切られてしまいましてね……命にかかわるような事や身に危険がおよぶ事は絶対にないと確約はさせましたが、万が一にも不埒な輩が襲ってこないとも限りませんので今回は私とアドルファスも同席することで了承いたしました」


「まぁ……それはまた、わたくしが襲われる可能性があるという事なのでしょうか……」


「その事なのですが、恐らく直接危害を加えに来る可能性は、恐らくもうないと思います」


「まぁ……それは何故なのか伺ってもよろしいですか?」


「はい勿論ですとも、ですが答えはそれほど難しくありませんよ。 の狙いはエリクシール薬だったからです、そのためにあの毒を使った結果ウォルターが倒れました。 しかし現在彼は回復している。 という事はすでにもうエリクシール薬は使用されてしまったとも気が付いたはずですので、もうキャサリン嬢を狙う意味がないのです」


「あのお母さまの形見のお薬が狙われていたのですか……」


「ええ……そういう事なのです。 ですから危険度としては下がったと思いますが万全を期して儀式には付き添いますから安心して下さいね」


とエドワードが微笑むと、キャサリンも安心したように微笑み返す。


「はい、お任せいたします。 しかし、聖杯に適合者として選ばれてしまった場合はどうなるのでしょうか」


「そうですね……恐らくハリーテ様とどちらがより適合者としてふさわしいのかを判断して決まるのではないかと思いますが……そこで聖杯に選ばれた方が聖女になるのでしょう」


「あの……エドワード様……今更な質問で申し訳ないのですが、一体聖女とはどういう存在なのでしょうか」


「今回の件は別にして、歴代の聖女様のお話でよければお聞かせいたしますよ?」


「ええ、お願いできますか?」


「そもそも聖女と呼ばれる存在が最初に確認されたのは、とてもとても古い時代に異世界より召喚された女性だったのだそうです。 その時代は今とは比べ物にならないほど街の近くに凶悪な魔物や魔獣と呼ばれる存在が闊歩して人々を襲う恐ろしい時代だったのだとか」


真剣な顔で語るエドワードを恐ろしげな顔で見つめるキャサリン。


「そんな時代があったのですか……」


「ええ、歴史として学ぶ範囲よりもっと古代の話ですからご存知なくて当然です。 その凶悪なモノたちの行動が活発になった原因が『瘴気』と呼ばれる……そうですね、精神に害を及ぼす毒の煙のようなものだと思っていただけたらいいでしょう。 その瘴気がこの大陸のいたるところから吹き出し、とうとう人間たちにまで害が及ぶようになったのだとか……」


「そんな……」


すっかり話にのめり込んでいるキャサリン。


「もう他に後がなくなった古代の人達が、最後の希望を持って召喚したのが『聖女』とのちに呼ばれた瘴気を浄化する力を授かった異世界の女性でした。 その女性は突然のことに、最初は混乱し泣き叫んだそうですが召喚に立ち会った者たちが『必ず守るから』と約束をし、聖女自身も目の当たりにした世界のあまりの様子のひどさに、瘴気を浄化する旅へ出ることに同意したそうですよ……やはり聖女と呼ばれるだけの慈悲深さを持っていらしたのでしょうね」


「凄い方ですわね……わたくしならきっと恐ろしくて泣き暮らしているかもしれません……」


「それが普通の反応だと思いますよ……それで聖女は少数精鋭の部隊と共に、長い……とても長い時間をかけて浄化の旅を成し遂げたのだそうです。 その旅の間に守ると言った者たちは約束通りに、身を挺して聖女をかばい次々と命を落としていったのだとか……その時に聖女は言ったそうです『彼らはちゃんと約束を果たしてくれた、だから私も必ず彼らとした約束は守って見せる』と……」


キャサリンは感情移入してしまったのかポロポロと泣いてしまった。


「そんなに辛いお役目だったのですね……」


「ええ、そして見事務めを果たし浄化を終えたこの大陸は、脅威から逃れることができました。 その偉業をなしとげた聖女に、当時すでに存在していたウォルセア教の法王が『大聖女』の称号を与え、さらに尋ねたそうですよ『力の及ぶ限りなんでも願いを叶える』と すると聖女は言ったそうです。ただ一言『家族の元へ帰りたい』と……その願いを叶え聖女を異世界に返す時に、聖女が流したこの世界との別れの涙こそが『エリクシール薬』だと言われておりますね」


「えっ!? そんな貴重なものだったのですか……さすが伝説の万能薬……」


「もしやキャサリン嬢はこの話を聞いて、ウォルターに使ったことを後悔なさってますか?」


「いえ! そう言う訳ではないのです……ただ勝手に使って良かったのかとちょっと心配になってしまって……」


その言葉を聞くと、エドワードは可笑しそうに


「心配いりませんよ、エリクシールの原料は聖女の涙ではありません。これはただの物語です、すみませんね、ちょっと反応を見てみたくてからかってしまいました」


とニッコリ笑う。


「エドワード様……いじわるです」


キャサリンはむくれた表情になってエドワードを軽くにらむ。


「これは申し訳ありません。 それでですね、その後歴代の聖女が何人か選ばれるようになったのですが、実はこの者たちはあるお役目を密かに担っていたのだそうです」


「お役目ですか?」


「ええ、ですがこのことは法王聖下と聖女のみの秘密とされておりますのでこの先は内緒です」


ニコリとエドワードが笑ってごまかす。


「そんな……そこで終わられては気になります……」


「ならば、キャサリン嬢が聖女となって聖下にお聞きになるといいですよ」


「それは……わたくしには荷が重いですわ……」


「セオドア殿下の事は抜きにしても、やはり聖女にはなりたくありませんか?」


「正直に申し上げますとわたくしのようなものに務まるとは思えないのです……。 それにお役目についたら侯爵家も継げませんし……あ、あとつぎも……」


真っ赤になって最後はポソポソと訴えるキャサリンを深く追求することもなく


「あぁ、確かにそうですね。 分かりましたキャサリン嬢が望まないのであれば我々もそのように動きますのでご安心ください」


とニッコリ笑って請け負うエドワードであった……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


・エドワードはなんでエリクシールの原料がなにか? とか法王と聖女だけが知ってる秘密の役目の事を知ってたりするんでしょうねー?(白々しい)


けして作者がすぐ設定忘れておかしなことを言い出だしたわけじゃありませんのでツッコミはご容赦ください(土下座)

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