第32話 アメフット一行到着

 あれから10日余りたった真昼の曇り空の中、アメフット一行はやっと本神殿前に到着した。


 元は豪華な仕立てであったろう馬車が、あちこちに補強の跡を張り付かせ、車体を斜めに傾がせた格好でノロノロと進行してくる様子には、出迎えた本神殿の面々も流石に引かずにはいられない様子であった。


 それを少し離れた場所から追跡しながら見ていたエドワードとアドルファス。


「すげーもん見れたな、ありゃ中にどんなバケモンが入ってるのかすげぇ見てみたくねぇか? 絶対キャサリン嬢ちゃんより凄ぇもんが中にいるぜ」


と、なにやらはしゃいでいるアドルファスにエドワードは呆れて


「アンタ遊びに来てるわけじゃないんですから、もう少し緊張感を持ってくださいよ……」


と小言を言い始める。


「良いじゃねぇか、神殿じゃやることが無くて退屈するしかねぇんだからよ」


少しふてたようにボヤくアドルファスに


「何言ってるんですか、ここに到着してすぐ、一人でさっさと街にでて居なかった癖に……」


と冷たい視線でアドルファスを突き刺している。


「まぁ、アンタが神殿に大人しく居て、浄化されても困りますから仕方ありませんが、の確保は順調なのでしょうね?」


「テメェ……本気でひとのこと悪魔かなんかと勘違いしてんじゃねぇのか……? ……まぁいい、フールが吐いた大司教の隠れ家は案の定放棄されてやがった。」


「やはりそうですか……」


「あんなとっ捕まり方しやがったら、いくら実の子でもかばいだても出来やしねぇからな……切り捨てるのも当然だ。だがあの大司教、人望がないから優秀な人材が集まらないんだか、部下の育成がヘタなんだか知らねぇが屋敷の周りにでっかいネズミが居やがったぜ」


「そんなに大きいネズミだったんです?」


「あぁ、見るからにガラの悪そうなごろつきがうろついてやがった」


と面白そうな顔でアドルファスがいう。


「それは……密かに屋敷の様子を見させるならともかく、アンタみたいなな風貌の者を近辺にうろつかせるなど、疑ってくださいと言ってるようなものでしょうに何を考えているのやら」


「テメェ俺がごろつきだって言いてぇのかよ……」


唸るアドルファスにエドワードは構わず


「それで、そのネズミのかたにお話は聞けたんでしょうね?」


「……あぁ。 雇い主は大司教の子飼いの司教だ」


「なるほど……ではその司教に色々聞いたら捗るかもしれませんね、早速手配しておきましょう」


 と、会話してるうちにギシギシと悲鳴を上げる馬車からぬぅっと大変太ましい足が見えた。


 それから馬車の周りを数人の使用人たちが慌ただしく囲み一斉に、これまたけばけばしい色のドレスの上からでもわかる太ましい腕を引っ張っている姿が隙間から見える。


「なぁ……あれ出口に引っかかってんじゃねぇか?」


ニヤニヤと非常に楽しそうなアドルファスの様子に呆れつつも、馬車の様子に驚きを隠せないエドワード。


「一体どうやったらあそこまでブクブクと太れるんでしょうかねぇ……」


 そうこうしているうちに、使用人たちが無理やり引っこ抜いたようでとんでもない巨体がズボッと抜け出て勢いよく飛び出し、使用人達を下敷きにしてさながらボディプレスのように地面に叩きつけられた。


その様子を見ていた一同はポカーンと呆けたが、ハッと気が付いたように


「誰か! 下敷きになったものの救助を! 治療師を呼べ!」

と大惨事の様相を見せ始めた。


それを見た二人は、何とも言えない顔を見合わせてそっとその場を立ち去るのであった……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


・外に出る寸前だったので軽量化の魔法がかけられていた為、使用人たちは軽傷で済みました。


さすがに怪我人が出るような事態を面白がるほど、空気が読めない人間じゃなかったアドルファスなのでした。

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