第25話 旅路の3人

 騎士団本部より旅立ったアドルファス一行は、少し肌寒い陽気の中街道をまっすぐ突き進んでいく。


「おい……もう少し早く馬車は走らねぇのかよ」


不機嫌そうに文句を言うアドルファスに、王家の紋章の入った豪華な馬車の内部から


「仕方ないでしょう、大変ふくよかなご令嬢が乗ってる馬車がそんなに猛スピードで走れるわけがないんですから」


とエドワードが馬上にいるルイスとアドルファスをジトリと眺める。


「それでも貴方たちはいいでしょう? 馬に乗ってられるのですから、なんなら馬車待機代わりますか?」

と馬車の窓を少しだけ開けて空気の入れ替えをする。


馬車の内部は元のキャサリンの体格を模した荷物に布がかけられ鎮座しており大変狭い。


「けっ……先見てくるわ……」

とさっさと馬を走らせていくアドルファス。


「まったくこらえ性がない……」


とブツブツとエドワードは狭いながらも広げた書類の山を眺めつつ文句を言っている。


それを可笑しそうにルイスは眺めながら馬車に並走して馬を走らせている。


「まぁそう怒るってやるな……」


と苦笑しながらルイスはエドワードを宥めた。


「それでいつは来そうなのだ?」


真顔に戻りルイスはエドワードに尋ねる。


「そうですね……恐らく国境を抜けた後、三日後の宿泊先予定の小さい街の宿が怪しいでしょうね」


エドワードは書類から顔を上げることもなくそう答えた。


「もう少しウォルセアに近づいてから事を起こすのかと思ってたが……」


「影から連絡がありました、大司教側ではなくアメフット側のネズミがちょろついているようなのですよ」


「連携がとれてないと?」


「どちらかというと主導権争いのようですよ、手は組んでも対等ではないのでしょうね……」

と吐き捨てるようにエドワードは言った。


「ふむ……用心は怠らぬがそれまではあまり気を張りすぎんように部下たちには伝えておこう」


「しかしなんで貴方までついてきたのです? 騎士団長なのですから部下に任せてドンと本部で待機していれば良いではありませんか」

とエドワードはチラリとルイスを見てクスリと笑う。


「友が危険な場所へ向かうというのに見捨てろというのか?」


と、気持ちむっとしながらエドワードへ抗議する。 

それを微笑ましく見ながら


「そうは言ってませんよ? しかし貴方には責任ある立場と大事な家族がいるのですから……」


「それでもだ、ここで見捨てるような真似をしたらそれこそ妻に家を追い出されるわ!」


「確かにあの方でしたらやりかねませんねぇ……」


と、ルイスの妻について思いをはせる。


 ルイスの妻は元々はルイスの部下の女騎士であったが、とある作戦中に重傷を負い騎士を続けられなくなり、退団したのだがその際に紆余曲折があり結婚することになったのだ。


現在は時折、ふらりと騎士団本部へやってきては後進の女騎士の指導にあたったりと、騎士道精神にあふれる大変豪儀ごうぎな奥方である。


オホン!とルイスは咳払いをして


「それで、今夜はどうするのだ?」


「とりあえずまだ国内ですから、向こうの好きにはさせませんので、今のうちは安心して騎士たちを休ませてください」


「分かった」


と部下の騎士達へ声をかけるのだった。



* * *


 三日目の深夜、国境を抜けて小さな町の宿屋へと着いた一行は、二階へを運び込み深夜まで待機することにした、提供された夕食を食べながらルイスは


「宿の主人は?」


と、エドワードへ問いかける。


「予定通りと交代していただいておりますよ」

といくばくかの金銭と引き換えに貸し切りにしてもらい、宿の主人一家には旅行に出てもらった説明をする。


「宿の主人には『まさか自分が旅行して他人の宿に泊まる日が来るとは思わなかった』と喜んでいただけました」


と、冗談めかして語るエドワードに


「確かにそうそうない体験であろうな」


と納得するルイス。


「おい! もっと量ねぇのかよ」


ともりもり食事をとるのはアドルファス、それをみて呆れたように


「アンタは……もう少し遠慮したらどうなんです?」


と、言いながらも追加の指示を出してやる。


「ウチのもんしかいねぇんだから毒見の心配もいらねぇ。 こういう時こそ食わねぇでいつ食うんだよ?」


と、エドワードの方を見もせずもりもり食べている。


 警護対象のいない襲撃待ちという状況のせいか、いつもより気楽な様子でエドワードへ問いかけるアドルファス。


「何人来るんだ?」


「恐らく30人ほど」


「そりゃずいぶん多いな」


「暗殺じゃなくて誘拐目的ですからね……しかも誘拐対象が、一人じゃ運べないのは承知しているでしょうから主に運搬要員なのでは?」


「あー、アメフットは魔法使えるやつあんまりいねぇんだったか」


「ええ、なので珍しい浮遊魔法要員はいないでしょう、いても軽量化の使い手くらいではないでしょうかね?」


「浮遊魔法って珍しいのか?」


「うちの国でもそこまで使い手の数は多くないと思いますよ、いても主に運送、運搬系の仕事などで引く手あまたですから他国に流出していきませんし……そういえばウォルター君のような『ご令嬢運搬係兼執事』っていう就職先は珍しいですけどね」


と、思い出しながら言うエドワード


「オメェとかババアが普通に使ってたから珍しいと思わなかったぜ」


「そりゃあ大魔導士であるお師匠様は使えない魔法の方が少ないですからね」


と自慢そうにいうエドワード


「だからって箒浮かせて追い回すとか使い方がおかしいだろうがよ」


「アンタがいらない事ばっかりして怒らせたからでしょうが」


「おめぇはおめぇで城で仕事してた時には書類の山浮かせて届けさせるしよ、書類から顔上げたら目の前にまた書類の山が浮かんでたときは意味が分からねぇって何回も思ったぜ」


「使えるものは便利に使わないと」


と、しらっと食後のお茶を飲みながら答えるエドワード、それを楽しそうに見ていたルイスが


「そろそろをもてなす準備をするべきだと思うが?」


と緊張感を高めつつ二人を促す。


「そうですね」


「あぁ……」


二人も同意して席を立つのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


やっと漫遊らしいことをさせられました。

当初はもっと旅に出すつもりだったのに……

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