第26話 真夜中の襲撃者

 フィルド国境に近い小さな町の唯一の宿屋のほど近く、アメフットの宰相より極秘裏に派遣された部隊の者たちは夜に紛れて密かに襲撃のタイミングをうかがっていた。


「手はずは?」


「全員に通達済だ」


「いつ仕掛ける?」


「まだ騎士が動いている数が多い、もう少し夜が更けるのを待とう」


「了解した。香木の準備をしてくる」


と、黒装束で固めた者たちはそれぞれの役割を全うするために配置についていく。


「しかし、ターゲットは本当にとんでもない巨漢なのか?」


「噂によるとご主人様のご息女に負けず劣らずらしい」


「世にあのような方が三人もいるとは世界は広いな……」


「しっ!滅多なことをいうな……ご主人様の耳に入っては命がないぞ」


「あぁ……すまん」


頭巾をかぶっている為、表情は見えないが慌てて口を噤む様子から宰相を相当恐れているようだ。

そうこうしているうちに頃合いとみて


「外の騎士からいくぞ」


と一斉に駆け出すのであった。


 襲撃者達が宿の外に立っている騎士達に仕掛けようとした瞬間、宿の扉が開き同僚とみられる騎士が何事か声をかけている。


 リーダー格の者が仲間を手で制し、様子をうかがっていると扉を守っていた騎士達はなにやら談笑しながら宿へと入っていき、扉の前は誰もいなくなった。


「交代なのか……? にしては誰も交代に立たないしどういうことだ?」


訝しく思いながらも、少しづつ宿へ近づいていく襲撃者達。


中の様子をうかがっていると騎士たちは食事をとりながら、酒を飲んで楽しそうにしている。


「なんてずさんな警備だ……これがフィルドの騎士か、たいしたことのない……」


と、リーダーが思わず呟いたその時


「おう、すまねぇな!」


と声がしたかと思うと首筋に衝撃を受けてリーダーは昏倒した。


「なっ!」


その声を合図にしたかのように、宿の明かりが一斉に消え真っ暗な闇に閉ざされる。


 慌てて周囲をうかがう残りの襲撃者達は、自分たちのすぐそばに立つ人の姿を微かに捉えたが時すでに遅く、夜目もきかない濃い闇の中音もなく仲間が次々と倒れ伏していく。


「て、敵襲だ!」


と、動揺する襲撃者達に


「それはこっちのセリフじゃねぇか?」


闇の中から声がする。


「こんだけ大勢で来てくれたお客さんなんだ、歓迎してやるよ!」


と派手な立ち回りをしているらしい声と共に、眩しい明りが灯る。


 どうやら『ライト』の呪文を唱えたものがいるようで、目が慣れてきた襲撃者たちは宿の周りをグルリと騎士たちが囲みこちらへ剣を向けているのを見た。


「こ、これは……」


 自分たちが罠にかかったのだとようやく理解した襲撃者達は、逃げる隙を見逃すまいと必死であたりを見回す、すると一人の威風堂々とした騎士が前に進み出て


「我がフィルド騎士団を大したことがないなどと侮った事、後悔するがいい……」


唸るように言い放ったルイスは神速もかくやという勢いで襲撃者達を切り伏せていく。


それに続けと騎士達の士気も最高潮に、哀れ襲撃者達は地面へと抱擁されるのであった。



* * *


 宿の2階の部屋は静かに寝息を立てる 巨大な影が一つ……。


 屋根より窓へ伝いおりてきた別動隊は、静かに窓をこじ開け火をつけた香木の煙を部屋へと流し込む。

眠りをより深くする香木の煙が部屋へと充満し、なお深い寝息を立てる巨大な影。


 頃合い良しとみて、スルリと部屋に入ってくる誘拐班。


辺りの様子をうかがいながらソロソロと音もなく近づいてゆく。


巨漢を固定するために用意していた丈夫な紐を手に、体に触れた瞬間


「ふぐぅぅぅうっ」


と、声にならない凄まじい衝撃を感じて誘拐班は床に倒れ伏す。


「ようこそ、と言いたいところですけど招かれざる客はうちではお断りしていましてね」


と巨漢の影から人影が出てくるのが仰向けに倒れた誘拐班の、かろうじて動かせる視界にうつる。


「電撃麻痺のお味はいかがですか? あぁ、お代はいただきませんからご安心ください」


と、ニコリと微笑むエドワード。


「その代わり洗いざらい知ってることは話していただきますけどね……。 あぁ自決なんて考えてもムダですから観念してください?」


と冷たい視線で誘拐班を射貫くのであった。



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