第24話 ウォルセアへの旅立ち
騎士団宿舎へと部屋を貰えるようになったキャサリンは、朝の鍛錬へと向かう前に部屋でウォルターよりエドワードが語った話を聞いていた。
「つまりどういうことなのかしら……ごめんなさいまだ難しいことは良くわからなくて」
と少し困ったように眉を下げてしょんぼり落ち込むキャサリン。
きちんと考えて不用意な答えを出さないように頑張ってはいても、今までのツケで政治が絡む話はいまだ不得手だ。
それでも相手に相談するという事を、ちゃんと実践できているのだから着実に進歩はしているだろう。 そんなキャサリンの頑張りが微笑ましく、また侯爵へのネタができたな……などとも思いながらウォルターは
「お嬢様、難しく考えることはなにもございませんよ。 貴女様が嫁ぎたいかそうでないかだけ考えたらよろしいのです」
と麗しい顔をほころばせながらキャサリンを見る、長年ウォルターを見慣れているキャサリンではあるがこんな笑顔は初めてで少し恥ずかしく思いながら
「そ、そうなの……」
とドギマギしながら答えた。
そしてしばらく考え込んでいたが
「ねぇウォルター」
「何でございましょう」
「お父様なら嫁ぎたいと言えば喜んでくださるのかしら……」
と、ちょっと悲しそうな顔でキャサリンは問いかけた
「断言いたしますが、お嬢様が嫁に行きたいとおっしゃったら自殺を図る勢いで止めると思いますよ?」
思わず真顔になりながらウォルターは答えた。
「ウォルターってば……お父様がそんな事するわけな……」
「私の執事人生のすべてを賭けて断言いたしますよ」
とキャサリンの言葉に被せる勢いで断言した。
「えぇっ……ウォルターってば何を根拠にそんな事いうの?」
その言葉に流石にもう、うち明けるべきかと話し出すウォルター。
「お嬢様……いままで旦那様に口止めされておりましたが、旦那様はお嬢様の事をそれはそれはそれは溺愛されておりますよ、えぇ、わたくしめが毎日事細かにお嬢様のご様子をお伝えしてるにもかかわらず、根掘り葉掘り隅から隅までまんべんなくしつこくしつこくお聞きになられますから」
と無表情で一気に言葉を紡ぐウォルターの話の内容ににキャサリンはとても困惑した。
「だって……お父様一度もそんな素振りはなかったのよ?」
「旦那様は、普段仕事が忙しいあまりに滅多に会えないお嬢様に対して……その……とても恰好つけていらっしゃったのですよ……」
と、いささかばつが悪そうに言うウォルター
「本当は、お嬢様が余り旦那様に構ってもらえずに寂しがっていらっしゃることは存じておりましたが、旦那様に固く口止めされていたので今まで黙っていて申し訳ありませんでした……」
と、深々と頭を下げるウォルター
「……正直まだ信じられないのだけど、お父様はわたくしがずっとお傍にいても喜んでくれる?」
と切実な表情で問いかけるキャサリンに
「勿論でございますよ」
と微笑むウォルターであった。
* * *
結局ウォルセアへ嫁ぐ話を断ったキャサリンは、残り少ない時間を鍛錬という名のダイエットと令嬢教育をギリギリまで頑張り、いよいよウォルセアへ旅立つ日がやってきた。
朝靄の中、密かに騎士団前より旅立ちの準備を終えた馬車と護衛の騎士が待機している。
「それではお先に出立いたします」
とエドワードへ優雅に礼をとるキャサリンへエドワードは
「道中お気をつけて、何かありましたら必ず騎士と執事殿の指示に従ってくださいね」
と優しく声をかける。
「はい、エドワード様もお気をつけて」
「ありがとう……あぁそうでした。 キャサリン嬢、これをお持ちください」
と少し長めの紐をつけた小さな袋を渡してくる。
「これは?」
「お父上より預かってまいりました。 これの中には小瓶が入っておりまして、中身は万能薬といわれている『エリクシール』が入っております」
「えっ?……あのおとぎ話に出てくる万病に効くといわれているあれですか?」
と驚いた表情で小瓶をしげしげと眺めた。
「ええ、『魔王討伐へ同行した伝説の大魔導士』のお墨付きですから間違いありません」
「そ……そうなのですか……なぜそんなすごい物をお父様が……?」
エドワードが少し躊躇いながら
「お母上の形見だそうですよ……」
とだけ伝えた。
「お母さまの……そうですか……わざわざお届けくださってありがとうございます」
万感の思いを込めて袋を抱きしめながら涙声で礼を言うキャサリン。
「お父上からの伝言です 『それはお前の思うように使いなさい、お前の無事以上に大事なことはないのだから無理はしないように』 だそうですよ」
と、キャサリンが抱きしめている袋の紐をとりそっと首にかけてやる。
大粒の涙を流しながらも声をガマンしてしゃくりあげるキャサリン、少しの間その声が響いていたが
「エドワード様、お二人には大変お世話になりました。いまだ不勉強な身ですが、この御恩に報いるためにも必ずフィルドの代表として恥ずかしくない振る舞いをすると誓います」
と泣き顔のまま美しい所作でエドワードへ礼を取った。
「その言葉たしかに受け取りました。 さぁ、時間です」
と、優しい笑顔で馬車へ乗るキャサリンを見守る。
「エドワード様、では手はず通りに」
と横で見守っていたウォルターも一礼して馬車に乗り込んでいき、静かに一行は出発していった。
「……さて、こちらも準備をせねばなりませんね」
とポツリと呟きエドワードは騎士団本部へと戻っていくのだった。
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・本編に入れられなかったので補足
キャサリン嬢のお父さんの侯爵が会いに来ないのは、アドルファス達からいままで娘の教育ちゃんとできてない上に、あんなに太らせたのは虐待だとめちゃくちゃ怒られて罰として接近禁止命令を出されている為です。(当然騎士団での暮らしの情報もシャットアウト)
なのでウォルターに様子を探りに行かせたのですが、そのまま帰ってこないで結局キャサリン嬢についていったウォルター(笑)
キャサリン嬢が無事帰ってこれたら、我慢できずに国境まで迎えに行ってべったり離れないパパになる事でしょう!
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