第20話 執事と令嬢と騎士見習い

 毎度おなじみの訓練場。


「今日の鍛錬はこんなもんかな、かなり動けるようになってきたじゃねぇか?」


と珍しく他人ひとを褒めるアドルファス。


「アドルファス様のご指導のおかげですわ」


とニコリと笑うキャサリン。 


 鍛錬という名のダイエットを始めて五か月が経とうとしている現在、アドルファスの無茶苦茶だとしか思えない指導のおかげなのかキャサリンの体格も、無駄な肉がかなり削ぎ落され相当引き締まってきていた。


ほっそりとはまだまだ言えないが、ポッチャリよりの太目といったところだろうか。


「じゃあ俺は行くとこがあるから適当に昼飯でも食ってからエドの所へ行ってこい」


「わかりました、では失礼いたします」


 淑女教育も少しづつ実を結んでいるようで、元々多少は下地があったおかげか大分所作も洗練されてきたようだ。


「やっと豚人間から令嬢への階段のぼり始めたみてぇじゃねぇか」


と後姿を見ながら呟くアドルファスであった。



* * *


 昼の時間には少し早かったがキャサリンは昼食をとりに騎士団詰め所にある食堂へと足を延ばす。 

すると


「あの……すみません、キャサリン・ブサイーク様でいらっしゃいますか?」


と問いかける声がする。 ぶしつけになんなのかと思ったが癇癪を起こしそうになったら、深呼吸してもう1回考え直すという教えを実践してガマンした。


「突然申し訳ありません、ぼく……私は騎士見習いのレイ・バーグと申します。キャサリン様でお間違いないでしょうか?」


と少年が問いかけてきたので


「ええ、そうですけど何か御用かしら?」


「はい、キャサリン様に伝言を預かってまいりましたのでお伝えするためにお声がけさせていただいたのです」


と少年はにっこり笑いかけてくるので、先ほど起こしそうだった癇癪も引っ込んだ。


「そうだったのですか。 それはわざわざありがとう、伝言を聞かせてくださるかしら?」


「はい! エドワード様より侯爵家から執事のウォルター殿がいらっしゃっているので午後は一緒に部屋へくるようにとの事です」


「ウォルターが?」


「はい、お部屋でお待ちだそうですのでご案内いたします」

と少年が腕を出してエスコートしてくれるようだ。


「ではお願いいたします」


とキャサリンはニコリと微笑んだ。



* * *

 案内してくれたレイと別れ部屋へ入ると、長年自分の専属執事として働いているウォルターが美しい所作で礼を取り出迎えてくれていた。


「お嬢様、お久しぶりでございます。 僅か5か月ほどでこれほどの変貌をとげるとはこのウォルター想像も致しませんでした」


とキャサリンへと笑みをむける。


「ありがとう、ウォルターも変わりなさそうで何よりです」


と侯爵令嬢にふさわしい所作でウォルターの前に立つ。


「中身も随分と変貌なさったようですね、あのお二方が保証してくださらなかったら別人と入れ替わったのではないかと疑う所ですよ。 あと、お嬢様」


「なにかしら?」


「試験合格おめでとうございます」


「試験?」


「ええ、お嬢様は騎士見習いの少年にいきなり声をかけられたのでしょう?」


「何で知ってるのかしら?」


「それが試験だそうです。 突然の出来事にも癇癪を起さず対応できるかどうかと、身分の下の者に対してむやみに尊大な態度を取らないか反応を見るとおっしゃられていました。」


その言葉に驚くキャサリン、感情のままに癇癪を起さずよかった……と内心胸をなでおろす。


「そのご褒美に、お嬢様のお好きなものをふんだんに使ったお食事をご用意しておりますよ」

と笑顔でウォルターはキャサリンをテーブルへと促す。


「り、量は控えめでお願いね?」


「勿論でございます、お嬢様の努力を無駄にするような真似はいたしませんよ?」


と給仕の仕事にとりかかるのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


・キャサリン嬢がレイ君にひどい態度取った場合はアドルファスブートキャンプに即逆戻りさせられる予定でした。

まぁレイ君は天然ホンワカさんなので早々ひどい態度取りにくいだろうという微妙な優しさもあったり……

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