第19話 キャサリンの新生

 今日も今日とて騎士団訓練場。


「それで、今日は何をさせるんですか? 午後からは令嬢教育がありますので午前中だけでお願いしますよ」


とエドワードはアドルファスへ釘をさす。


「まぁ今日はテストだな」


「テスト?」


「こいつだ!」


と、なにやらバネのようなものがついたよく分からないものを差し出して見せた。


「なんですかこれ?」


「紳士淑女養成ギブスだ!」


「……それ、何に使うんですか?」


頭が痛そうな表情でアドルファスを見るエドワード。


「テメェこのギブスの効果信じてねぇな! 昔マサタカのジジイが言ってたじゃねぇか、異世界では『父親が息子と娘を一流の紳士淑女に育て上げるために体に装着させる』っていうあれだよ!」


と得意げにエドワードを見る、エドワードは可哀想なものを見るような表情で


「あんな話信じてたんですか……ていうかなんでそのギブスとやらをアンタが持ってるんですか?」


「これ、マサタカのジジイが実際に作ってルイスにつけさせて鍛錬してたやつだぜ?」


「はっ?」


目を丸くしてポカーンとするエドワード、まさか本当に効果があるものなのか?と自問自答を繰り返す。


「ジジイの家にまだ置いてあったのを昨日とりにいってきたんだぜ! 早速ご令嬢に装着していただこうじゃねぇか」


とニヤッと笑うアドルファス。


「まぁ……好きに頑張ってください……私は午後の準備がありますから」


と丸投げして去っていくのだった。




* * *


 午後の騎士団本部の一室、エドワードとキャサリンは淑女教育の授業中である。


「……ですから、身分的に下の者は……どうしましたキャサリン嬢?」


なにやら様子のおかしいキャサリンへ声をかける。


「……なんで……なんでわたくしが毎日毎日こんな事しなくてはいけませんの? 別にわたくしウォルセアになど行きたくありませんからこんな事する必要がないではありませんの!」


と激昂しているキャサリン、大分体力が付いたおかげで余裕ができ色々考えることも増えたのだろう。


「なるほど、キャサリン嬢は『王命に背く』と勅使たる私に堂々と宣言なさるというわけですね?」


「そ……そんなこと言ってないではありませんか」


と誤魔化すように横を向いたキャサリンを無言でエドワードは見ていたが、やがてため息をつきながら


「キャサリン嬢、悪いことは言いません。 発言するときは十分物事を考えてからおっしゃることです、感情のまま口に出せば必ず足元をすくわれてしまいますよ」


その言葉にキャサリンは


「なんであなたにそんな事言われなくてはいけませんの、大体勅使なんていう身分じゃなければわたくしに対して口をきくこともできない身分のくせにっ!」


と食って掛かった。


「何を根拠にそんなことをおっしゃっているんですか?」


エドワードはキャサリンの思考回路に少し興味を覚えた、何をどうしたらこんなアホな事がいえるのだろうかと。


「わたくしは歴史あるブサイーク侯爵家の娘ですのよ? 身分が上の方々は現在公爵家が存在しない以上、王族以外に頭を下げる必要などないと知っておりますわ!」


と逞しくなった胸板を自慢げにそらす。


「では、もし私が王族だといったら貴方はどうするんです?」


「へっ?」


「そこまで自慢されるなら貴方は現在の王族すべて記憶されているのですよね?」


「えっ?……ええ」


「では、前々王の妹であるロザンヌ様が降嫁されたのもご存知ですよね?」


「勿論! たしか凄い功績をあげた伯爵家の現当主様が陞爵しょうしゃくを拒んでロザンヌ様を望まれたから嫁がれたのよ!」


と頬を染めて夢見る乙女にような表情で説明する。


「それが私の母です」


「え……」


「なので現在王の後継者は、嫁がれる予定の王女以外は王子お一人のみ。 他の王族はもうおりませんので、私は公にはされておりませんが現在王位継承権第二位を賜っております。それでも私に頭を下げる必要はないと?」


冷たい表情でキャサリンを見つめるエドワードは、真っ青になり震えながら何も言えなくなったキャサリンへ


「だから言いましたよね? 十分物事を考えてから発言しろと、中途半端な知識を振りかざした不用意な発言や言動は貴女の命にかかわるのですよ?」


「命? どういうことですの?」


「貴女が招聘しょうへいされた国は外国です、フィルドの常識や知識を身につけていても危ういのに、それすらきちんと持たない貴女はいつ殺されてもおかしくはないという事ですよ」


「わたくしは侯爵家の娘ですのよ? いくら外国だといっても無体な真似が許されるわけがありませんわ」


フン!と偉そうにものをいう。


「その常識が通用しないという事ですよ、 貴女が不用意な発言で罰せられるようなことがあったとしてもフィルドはかばわない、もしかばったとしたら国として弱みを見せることになりますからね。 あぁ、お父様が助けてくださるという甘い考えは捨てた方が宜しいですよ? 貴女と国どちらを取るか、いくら貴女でもお分かりになるでしょう?」


その言葉にキャサリンはショックを受けたようで顔色を青くして震えている。


「だから貴女のお父上は膝をついて私達に頼まれたのですよ『どうか娘を助けてほしい』と」


はっとした顔でキャサリンはエドワードを見た


「おとうさまが……?」


「ええ、貴女を死なせたくないと泣いていらっしゃいましたよ、奥様を早くに亡くされ忙しさにかまけて教育を使用人任せにしてしまったばかりに、家庭教師もすぐにクビにするどこに出しても恥ずかしい令嬢に育ってしまったと」


「嘘……お父様がそんなこと……言うわけないわ」


「むしろ可愛い娘がこのような怠惰な姿をさらして喜ぶほうが愛されていないのでは? 貴女はちゃんとお父上に愛されているという事ですよ」


「ほんと……? お父様はまだわたくしを愛してくださっているの?」


キャサリンはボロボロと大粒の涙をこぼしては、ゴシゴシを腕でこすっているのを見かねてエドワードがハンカチを差し出す。


「えぇ、まだ遅くはありません。 ですからお父上の期待に応えるためにも頑張ってみませんか?」


キャサリンはぶびーーとエドワードのハンカチで鼻をかみながら


「分かったわ! わたくしを一人前の淑女にしてくださいませ!」

と意気込んだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



・マサタカお爺ちゃんにわりと適当な事を色々吹き込まれて育ったアドルファス達なのでした……


爺「異世界にはな! ガラスでできた城にカボチャで出来たパンツはいた王子と裸の王様がいるんだぞ!」

アドル少年「異世界ってすげーーー」

エド少年 「そんな城 絶対住んでる人落ち着かないし王様風邪ひくでしょうが」

ルイス少年「カボチャのパイ食べたいな」 

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