第二章 聖女選抜の儀 編
第17話 聖女候補 キャサリン・ブサイーク
ジリジリと夏の暑さを感じさせる陽気になりつつあるフィルド王国、その中でも古くからの歴史あるこのブサイーク侯爵家にある一組の客人が訪れたのが今回の事件の始まりであった。
「キャサリンお嬢様へ、お客様がお見えになっております」
美しい黒髪を後ろで一つにまとめ、流れるような動作で部屋へ入ってきた美しい執事は自らの主人であるキャサリンへと告げた。
「客ぅ? いったいどこの誰が訪ねてきたというの?」
まだ真夏ではないのにダラダラと流れる汗、少しでも動こうものならゼヒューブヒューと上がる呼吸音、驚くほどの巨漢の令嬢の名前はキャサリン・ブサイーク、このブサイーク侯爵家の一人娘である。
「フィルド国王の勅使だそうです」
「は? なんで勅使がわたくしを訪ねてくるのよ」
「直接お会いしてお尋ねになられたらいかがです?」
「そうね、では運んでちょうだい」
「畏まりました」
執事は返事をすると魔法で彼女の体を浮かせて運び出した。
「それで、勅使様はわたくしになんの御用ですの?」
巨漢をやや窮屈そうに幅広いはずのソファーに埋め尊大な態度で、勅使を見る。
「……なぁエドワードよぉ」
そう話しかけながらしげしげとキャサリンを見るアドルファス
「なんです?」
「実物初めて見たけどすげぇなコイツ、こんな化け物みたいな存在初めて見たぞ」
「いきなり失礼な事いってはいけませんよアドルファス、いくら事実であろうとも一応仕事で来ているのですからもう少し湾曲なものの言い方はできないんですか?」
しれっと毒を吐くのはエドワード。
「ちょっと!なんなのあなた達! いきなり失礼な態度で何様のつもりなのよ!」
そんな二人を青筋を立てながら怒鳴り出すキャサリン、それを冷たい表情で眺めながらエドワードは
「何様は貴女のほうではないですか? 私達は王の名代である勅使ですよ? 私達の身分が何であろうとも貴女は王より上の身分ではないのですから勅使の方が上の身分になると教わらなかったのですか?」
その言葉を聞き、ゴヒュー、ブヒューと呼吸を乱しながら興奮してキャサリンは反論を始める。
「そんな事知らなかったんだから仕方ないじゃない! もう用事がないならさっさと帰りなさいよっ!」
バゴォォォン!
と凄まじい音と共に、腕を組んで尊大な様子で座っていたアドルファスが踵で上から蹴りつけたテーブルが真っ二つになった。
「……豚が人間の振りしてブーブーうるさく鳴くんじゃねぇよ」
唸るように言うアドルファス、その気迫と怒気にふれてキャサリンは真っ青になりながらダラダラと汗なのか体液なのかよく分からないもので床がビショビショになっていく。
「ぶ……ブヒュウ……一体何なのコイツ……」
鳴きそうな……もとい泣きそうな様子の令嬢を見かねたのか傍で様子を見ていた執事の青年が口をはさんできた。
「直答をお許しいただけますでしょうか」
「ええ、構いませんよ。 このままでは話が進みませんからね」
とエドワードが答える
「感謝いたします。 私めはブサイーク家執事ウォルターと申します、勅使様におかれましては……」
「ああ、そういうのはいいから本題に入らせてもらってもよろしいですか?」
「勿論でございます。そこの小汚くなった主に変わりまして拝聴させていただきます」
と優雅にお辞儀をする執事、中々曲者のようである。
「実はですね、ブサイーク侯爵には通達されているはずなのですが神聖国ウォルセアより神託が下ったとの連絡が来まして、ここにいるキャサリン嬢が聖女候補に選ばれたのだそうです」
「「は?」」
侯爵家主従の息の合った返事をききながら、エドワードはテーブルから非難させたお茶で喉を潤す。
「あの……我が主ではありますが
ウォルターは無表情でエドワードに問いかける、エドワードも困惑した表情で
「そこなんですよねぇ……私もあの国が何考えてるのかよく分からないのですがまぁ、あくまでも
「最終試験?」
「あぁ、ご存知ありませんでしたか、あの国の聖女は各国から候補を選出して『聖女選抜の儀』というのを行い、選ばれたただ一人が聖女様と呼ばれる存在になるのですよ、たしか前回は『勇者召喚』に合わせて選出されたらしいですねぇ
「左様でございますか……であればお嬢様は神聖国ウォルセアからの
「ええ、そういう事なんですけどねぇ……流石に
とキャサリンを嫌そうに眺めるエドワード。
「しょうがねぇなぁ……俺様が直々に鍛えてやるよ、本物のご令嬢へなぁ」
とニヤニヤと笑いながらも獲物を捕らえるような目でキャサリンを見ているアドルファス。
「貴方がやる気を出すなんて珍しいこともあるものですねアドルファス」
「まぁ出国まで半年あるからなぁ……多少は動けるデブくらいにさせれば国のメンツも保てるだろ」
「とりあえずはその程度が目標でしょうねぇ」
まるで出荷の相談でもするかのように値踏みしている二人に執事は
「お嬢様をよろしくお願いいたします」
と慇懃に礼をするウォルター。
「ブヒィ……ちょっと!!! 私の意見も聞きなさいよ!」
「「「 必要ない 」」」
と断言する三人であった。
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