第7話 蛇をつついて黒歴史を出す

 早朝の朝靄の中だるそうな歩みで宿へと戻ってきたアドルファスは、長年見慣れた相方であるエドワードが部屋の前の廊下に立っているのを見つけた。


「よぉ」


と手を上げて部屋へ入ろうと扉をあけるアドルファス


「夕べ勇者連れだしたでしょう、何考えてるんですか?」


とそれを追いかけながらエドワードが眉を顰める。


「おう、お前も娼館いきたかったのかぁ?」


「誰もそんな話はしてませんよ。アンタが漁色ぎょしょくに溺れようと、病気もらって野垂れ死にしようとどうでもいいですが、異世界人の未来ある若者を変な道に引きずり込むのだけはヤメてください。」


アドルファスはニヤニヤと笑いながら


「せっかく来た異世界なんだから少しくらい楽しい思いもさせてやりてぇじゃねぇか。どうせオメェもヤりたかったんだろ? なんなら今から行ってきたらどうだよ?」


「はっ、私はヘタレ男のアンタと違って不自由してませんからお気遣いなく」


と心底バカにしたようにアドルファスを眺める。


「あぁ? 俺のどこがヘタレなんだよ?」


「あれはアンタが14才のときでしたっけねぇ? 勇者だったマサタカ師匠のお孫さんのミカさん?でしたか」


ニヤリとエドワードはアドルファスを見る


「はぁ!? テメェなんで知って……いやなに言ってんのかサッパリわかんねぇ!」


動揺から丸わかりな誤魔化しをするアドルファスに畳みかける


「残念でしたねぇ、好きすぎて女の子イジめるとか最悪もいいところの方面に突っ走った挙句、ミカさんが近所の商人の跡取りと付き合い始めて、あの時この世の終わりみたいな顔してましたよねぇ……」


「テメェ……それ以上喋ったら殺すぞ……」


ギリギリと歯を食いしばる音がするがエドワードは追撃の手を緩めない。


「結局その後その商人への嫉妬に狂った挙句、物理的に消そうとしてバレて師匠には半殺しの上メチャクチャ怒られるわ、ミカさんには告白するどころか『アンタが生きてる気配を感じ取るのも嫌』ってフラれるわで大変だったそうですね、マサタカ師匠がゲラゲラ笑いながら教えてくれましたよ?」


とニッコリ笑いかける。


「……あんのクソジジイがぁぁぁぁ」


地の底から這うような声を出しているアドルファス。


「そんなヘタレ野郎に女性の心配される筋合いはありませんのでさっさと夕べの話をきかせてくださいよ」


と呆れ口調でエドワードが急かす。


「あとで覚えてろよ……」


とエドワードをギラギラした目で睨みつける。


「じゃあ、ヘタレじゃないアンタが私の代わりにあのマーゴとかいう女にしてくれるようにしてくれるんですか?」

と挑発する。


「チッ……もう寝るから出ていきやがれっ!」


とアドルファスはエドワードを追い出して部屋の扉を乱暴にしめた。


「さて、特にの必要はなさそうですね、では私は私の仕事をしましょうか」


と、エドワードは楽し気に1階の食堂を目指して歩き始めた。

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