第6話 ゴトーの戸惑いと怒りと悲しみ 2

「それでよ、お前さんにはまだ聞きたいことがあるんだ」


涙もおさまってきた頃を見計らうようにアドルファスはゴトーへと問いかける。


「あ……あぁ何を聞きたいんだ?」


居たたまれない気持ちを抑えてゴトーは返事を返す。


「レイ少年の事だよ」


「…あのスパイ野郎がどうしたんだよ」


吐き捨てるように言ったゴトーはアドルファスを睨みつける。


「そこだよ、なんでレイがスパイだって思うんだ?」


「ショカンシタを出る時にマーゴがコッソリ教えてくれたんだ『あいつは王が送り込んできたスパイだ』って」


アドルファスは首を傾げる。


「女がそうだって言えばレイはスパイなのかよ?」


ゴトーは年相応の少年らしく叫ぶ。


「だってっ! あのクソみたいな国で、イヤな思いばかりさせられた時にいつも俺をかばってくれたのはマーゴだけだ……俺が信じられるのは……ずっと優しくしてくれたアイツだけなんだよ…」


ショカンシタでのひどい扱いを思い出してまた涙があふれてくる。


「まぁ、平和な国で育って他人の悪意なんて触れたこともない子供には酷な話だろうけどよ、その甘ったれた考えのままじゃお前食い物にされて死ぬぜ?」


「えっ…?」


「この世界はお前たちの世界ほど優しくねぇんだよ、弱みなんてみせたら付け込まれた挙句、骨までしゃぶられて最後はそこらのドブ川で死体でみつかればマシって具合のクソみてぇな世界だ。だからこの世界ではまず人を疑う事を忘れんな」


とアドルファスは眉間にしわを寄せて吐き捨てる。


「疑う……それってマーゴの事言ってんのか? あいつが俺に嘘教えてなんの得になるんだよ」


「あの女はショカンシタの暗部…いってみれば女工作員だな」


「なに……いってるんだよ、マーゴは魔法師団の魔法使いだぞ!工作員なんてそんな……」


「それとお前さんの知らない事実がまだある、あのレイ少年の親父はショカンシタ王国騎士団の団長だったが、『王国の重要な儀式』の最中の事故に巻き込まれそうになった王をかばって死んだと言われている。 まぁ十中八九召喚に反対してお前さんの召喚の時の人柱にされたんだろうがよ」


淡々と話して聞かせるアドルファス。


「ひとばしらって……た、例えそうだったとしても俺に何の関係があるんだよ」


青い顔でアドルファスに食って掛かる、だがあっさりと


「ねぇな」


と返されてしまった。


「じゃあなんでそんな話を…」


構わずアドルファスは続ける。


「レイ少年は親類もおらず、母親を早くに亡くした上に父親までが死んじまったから天涯孤独になった。それを良いことにあのクソのショカンシタ王が『温情をかけてやる』とかで、騎士見習いとして飼い殺しにしてたんだよ。 父親の死を嗅ぎまわらせない為だろうがなぁ」


「…どこまでクソな国なんだよっ…!?」

ゴトーは怒りのやり場がなくテーブルに拳を叩きつける。


「そこにきてせっかく苦労して召喚したお前さんを上手く操り人形にもできない。あのクソ王焦ったんだろうよ、なんせ『第一級国際条約違反』だ、バレたらこの大陸すべての国から制裁を受けることになる」


ニヤニヤと楽しそうにアドルファスは続ける。


「だから、簡単に証拠隠滅を図ろうと適当に旅に出してお前さんを殺す。 その罪をレイ少年に被せて相打ちだったとか適当にでっち上げてレイ少年も殺す、その役目を受けてるのがあのマーゴとかいう女って筋書きだろうぜ」


「そ……そんな……マーゴ……嘘だろ……」


ガクガクと震え出したゴトーを静かに見守るアドルファス。


「まぁ嘘だと思うならそれでいいぜ、疑えって言ったのは俺だからよ、ただレイ少年は言ってたぜ、自分よりお前さんのほうがずっと苦労してるってな、本当にお前さんを見てくれてたのは誰だったのかねぇ」


震えが収まらず、自分の肩を抱きしめるように蹲っているゴトーを静かに見ているアドルファス。


「まぁ何にしてもお前さんにはやってもらわなきゃならない事がある、勿論協力してくれるよなぁ?」


ニヤリと笑いかけるアドルファスをゴトーは虚ろな目で見あげた。


「とりあえず俺の使いが迎えにくるまでお前さんはしばらくここに隠れてろ、荷物もあとで届けさせる。 分かったか?」


もう気力がなくなったのかゴトーは無言でコクリと頷く、それを見たアドルファスも無言で部屋を出ていった。

◆◇◆


※その後綺麗なお姉さんが、ゴトーくんのお部屋を訪ねて来たのかどうかは皆さまのご想像におまかせします!



・純朴な少年は異世界で初めて優しくしてくれたお姉さんにコロっと洗脳されてしまったんですね。

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