第37話 埠頭での決闘③
「今度の事はまさか、あの時の復讐のつもりか。確かあの時は、お前は妹を守れなかったが…今度はどうかな」
津山のこめかみの血管は大きく膨れ上がり、目は野獣の力を失ってはいなかった。
しかしその本能が示す力とは裏腹に、マシンガンとケースは力なく地面に落ちた。
「おいそこのぼうず。津山の銃とケースを持って来い」
伊沢に呼ばれたのは、ボートの上で恵美子に目を奪われていた中川だ。彼も野崎も伊沢が持つムードがとてつもなく邪悪であることは本能的に感じていた。本当に、本当に妹さんが危ない。
手紙の口述筆記をして津山の妹の存在を知っていた中川は、実際に彼女を目の当たりにして、自分の想像を遥かに超える恵美子の可憐さに驚いた。
青ざめて小さく小鳥のように震える恵美子を見ながら、前に何があったか知らないが、今度はこの子は絶対に守らなければならないと強く感じた。頭の中がめまぐるしく動いた。
「どうした。早くしろ」
じれた伊沢に急かされた。今はおとなしく従うしかない。マシンガンとケース拾い伊沢のもとに持っていったが、ボートに戻る際に、舫を直すふりをして、ボートに繋がっているロープを伊沢たちが立っているハシケの柱に結んだ。
伊沢たちは、戻ってきたケースに目を奪われて気づく様子もない。しかし、健二は目ざとく中川の動作を認め、その意図を悟った。
「おい、そこのチンピラ。お前がまだ生きていたとはな。やっぱゴキブリはしぶとく生き残るもんだ。動くんじゃねえぞ。おれは、そこの奴みたいに油断したりしないからな」
不自然な格好で地面にうづくまる鼠を顎で指して伊沢は言った。これはじりじりと間合いを詰める健二への先制攻撃だった。これで、健二も動けなくなった。
全員が動けないことを確認すると、伊沢はにやけながら、ジッポウのライターで木っ端に火をつた。
「さてお次は、今日の再会を祝して、記念品の贈呈ってやつだな。お前のかわいい妹さんの顔に一生消えない思い出でも刻ましてもらおうか」
絶望感を積み重ね、失意のどん底で相手に最後の引導をわたす。伊沢ならではの残忍な演出である。伊沢はジッポーのオイルを恵理子の顔に振り掛けると火を近づけていった。
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