第36話 埠頭での決闘②
津山は、鼠が動かなくなったことを確認すると、地面にへたり込んだ。そして、ようやく反撃の機会を与えたくれた第三の影の正体を知った。
「健二、お前生きてたのか!」
「兄貴。俺、倉庫で目がさめたら誰も居ないんで、兄貴に見捨てられたかと思ったよ」
「倉庫でいくら呼んでも動かないから、てっきり死んだかと思ったぜ」
津山は目に涙を浮かべて健二を抱きしめた。健二の片腕は、包帯でまかれ三角巾で吊られていた。
「そんなことしてないで、早くボートへいくのよ」
地面から立ち上がってきた野崎と中川は、この二人やり取りが理解できずにしばし呆然と眺めていた。しかし、遠ざかる船を思い出した野崎の叫びに、全員がボートに向かって走り出した。
「ところで、どうやって動かすんだ?」
ボートのそばにやって来た津山の嘆きに、最初にボートに飛び乗ったのは中川だった。父の友人にボートのオーナーがいた。以前海に遊びに行き彼のボートに乗せてもった時、その始動の仕方を見て覚えていた。その時も、彼の父親は仕事に忙しくて同行していなかったことは言うまでもない。
エンジンがうなり声を上げた。
「さあ、早く兄貴。ボートに乗ってくれ」
健二が叫ぶ。
「お前はどうするんだ」
「俺は、まだ組にも警察にも顔が割れていないから、田舎に戻ってかあちゃんとひっそり暮らすよ」
しばし、健二を見つめていたが津山だったが、健二の髪をくしゃくしゃになぜると意を決してボートへ進んだ。
しかし、津山はボートに乗り込む最後の一歩を、またもや阻まれることになる。
今度立ちふさがったのは、ひとりではなく三人。正確には、男ふたりと捕らわれた女ひとりであった。
「妹を残して行くなんて冷たいんじゃないか」
今度彼らの行く手を阻んだのは、伊沢たちであった。
「おい、津山。おとなしく物と金を渡しな」
最悪な事に、伊沢の手には、彼の妹恵美子が捕らわれていた。伊沢は恵美子の首元に銃を突き立てて話し続けた。
「しかし、お前らがあの時の兄妹だったとはな。大きくなったなぁ…俺も思い出すのに苦労したぜ」
小刻みに震える津山。野崎も中川もかって見たことのない彼の険しい顔を見た。まさに野生の狼のようだった。
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