第32話 嵐のあと

 その直後、警察の突入が行われた。真っ先にロビーに現れた服部は、床に倒れこんでいる男が、修ではなく牧田であることを確認すると、ひとまず安心した。


 修の姿を認めると、どちらからともなく二人は握手をした。

 修は、津山たちが来る前と今では、どうしてこうも違うのか不思議でしょうがなかった。まるで津山達が、自分たちに赤ちゃんを運んできて、修と麻里の願いを叶えてくれたのではないかとさえ思えた。

 そんな感慨に浸る修に、ねぎらいもなく支店長の声が飛ぶ。部下を置き去りにして自分だけ逃げた負い目など微塵も感じていないようだ。


「それで、金はいくらやられたんだ。」

「いいえ。一銭も…。彼は、自分が持ってきたお金を振り込んだだけです」

「なんだ。それじゃお客様ってことか…。お客様の帰り際には、ちゃんと毎度ありがとうございますって言っただろうな…」


 店長らしい指導を言い残し、あわただしく支店長室の中に消えた。



「とうちゃん。」


 警察に引かれる福島に、太一はすがった。


「大丈夫だよ。すぐ帰ってくるから」

「帰ったら、また大きなトラックを買おうね」

「おいおい、とうちゃんは脚が利かなくて運転できないよ」

「僕が代わりに運転するよ」

「…そうだな。とうちゃんだって、トラックに荷物を積むことはできる」


 そう言いながら、福島は頼もしそうに太一を見た。

 失ったものは、たかが足一本。彼はそのことにようやく気づいたのだ。一番大切なものを失わず、守る事ができた自信は、彼を呪いから解いた。

 風のようにやってきて、風のように去ったあの若者は、いったい何者だったんだろう。警察に引かれながらも、福島は彼らが去った後をいつまでも見つめていた。

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