第30話 服部と修の対決
仮設本部は、銀行から出てくる二人の姿を見て騒然となった。
麻里の肩を庇うように、修が寄り添っている。
保護できるところまで来ると、ぐったりした麻里には毛布があてがわれ、婦警に介護されながら対策本部へと導かれた。もちろん服部も真っ先に駆けつけ、父親らしく麻里を抱きしめたのは言うまでもない。
修は、自分に矢継ぎ早に発せられる質問を手で制した。
「彼女の具合が少し悪くなったので、人質犯にお願いして連れて出てきました。ただしその条件は、私が何もしゃべらず、もう一度人質として銀行に戻る事です。みなさん、ご理解ください」
「しかし…」
それでも食い下がる対策本部長に構わず、修は服部に向き直り言った。さあ、これこそまさに正念場だ。彼は生唾を飲み込んだ。
「こんな場所でお話する事ではないのですが、麻里さんのお腹には僕たちの赤ちゃんがいます。さっき銀行の中で僕も知りました。だから、犯人に麻里さんだけ解放してもらえるようにお願いしたんです」
「なんだと、貴様言うに事欠いて…」
「では、銀行に戻ります」
修は言うだけ言ってきびすを返すと、急ぎ足でスタスタと銀行へ向かった。
「待てお前、このまま戻るつもりか」
服部の言葉が彼の襟首を捕らえた。彼は振り返りもせず言った。
「犯人との約束ですから…」
正直彼は、マシンガンを持って中で待つ津山より、服部の方が恐ろしかった。彼は今にも、背中に銃弾が打ち込まれるのではないかと、とてつもない恐怖と戦っていた。しかし、彼の背中を叩いたのは服部の意外な言葉だった。
「ならば…必ず無事に帰ってこいよ。俺の孫が父親なしでは困るからな」
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