第24話 黄の受難

 めったに拭き掃除をしない黄の店の壁に、唾液混じりの血が飛ぶ。床にもんどりを打った黄の顔は、見る影もなく腫れ上がっていた。


 灰色のコートを身に纏った、どちらかといえば痩せぎすの男は、黄の奥襟をつかみ、引き上げるともう一度椅子に座らせた。


「だから、私何も知らない…」


 必死の訴えにかまわず、灰色の男は黄の利き腕を取って指を掴むと、鋭くねじ上げた。小指と薬指が鈍い音を立てた。二つの指は、根元からひし曲げられ、あらぬ方向へ向いていた。


「ぎゃーっ!」


 黄の叫び声で、彼の店に並ぶ輸入雑貨が震えた。それから灰色の男は何もしゃべらず、ただ黙々と、黄の指を折っていく。

 ついに、黄はその痛さに耐えられず、すべてを話した。しかし、灰色の男は、それでも指を折ることを止めようとはしなかった。すべての指が折られ、そして最後に彼の脊椎が折られ、叫び声すら出なくなった時点でようやく止まった。


 男は、あたかも、動かなくなったおもちゃに飽きた子供のように、床に崩れた黄に見向きもしないで店を出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る