第23話 服部の焦燥

「くしゅん!」


 銀行前の喫茶店に仮設で設けられた対策本部である。支店長は、くしゃみをしながら取り囲こむ警官に向かって、状況報告を行っていた。


「失礼…。ですから、私が支店長室で部下と話していた時です。窓口の方で誰かの大きな叫び声がしたなと思ったら、部屋に拳銃を振りかざした男が踊りこんできて、部下ともども人質に捕られてしまった訳です。ああ、ありがとうございます」


 支店長は、警官から水を受け取ると、震える手で飲み干した。


「言われるままに金を渡して、とにかく犯人を早く銀行の外に出すのがこういう時の対応マニュアルなんですが…。職員の一人がぐずぐず対応したものだから、皆さんが銀行に着く方が早くて、籠城ということになってしまったんです」


 服部は、話を聞きながら、その職員は修に違いないと確信していた。


「ところで、あとから車で突っ込んできたのは仲間なんですか?」


 対策本部長が支店長に聞いた。


「いや、とにかく混乱に乗じて逃げるのが精一杯だったんでなんともわかりません」


『混乱に乗じて、部下を置き去りかよ』


 支店長を取り巻くすべての警官がそう思ったものの、口に出すものはいなかった。


 話を聞いて、対策本部は状況分析にますます戸惑っていた。とにかくこんな事態を想定したマニュアルはなかったので、すべての行動を本庁に問い合わせ、了解を受けなければならない。それが、この現場に集う警察官の職を守り、退職後年金をつつがなく受け取る最善の方法である。

 しかし、服部にはそれによって生じる対応の遅れが、なんとも我慢できなかった。


『キャリヤは、ひとより余計に頭に金をかけてもらってるのに、その頭の使い方を知らない』


 娘を人質に捕られたこの現場で、あらためて思いしらされた。いたたまれなくなって、対策本部を出た。こうなったら少しでも娘に近づいていた方が役に立ちそうだ。


 現場の最前線に向かった。野次馬をかき分けて進むうちに、ひどく薄汚れたスーツ姿の男達に目をとめた。伊沢とその舎弟であることに気づくのに、そう時間はかからなかった。


『なんでこんなところに奴らが…』


 服部は、昇龍組が追っているモノとチンピラがどこにいるかを理解した。

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